Pinkoi台湾では、2021年より「LOVE 10 Times Better」をテーマに、プロダクトデザインを通して人生の多様性を発信してきました。 そんななかから、Pinkoiで活躍する台湾デザイナーのカップルを招き、愛について、そして「人生に10倍の愛を注ぐ方法」について伺ったインタビュー記事をご紹介します。
※本インタビュー記事は、台湾版Pinkoi Zineにて掲載(2021年11月23 日)の内容を翻訳、編集したものです。
※「一器一花」は、台湾にてワークショップを開催しています。(現時点で日本での開催や販売は行なっておりません。)
※台湾では2019年5月にアジアで初めて同性婚が認められました。
風が涼しくなった10月、台湾LGBTQパレードの前夜。花束を抱えた源と、笑顔の莫樂がPinkoiオフィス(台湾本社)に姿を見せました。
源は専業フローリストで、Pinkoiでインディペンデントブランド「一器一花」を展開しているオーナー。 映像ディレクターだった莫楽は、高雄での撮影の際、SNSを通じて源と知り合い、現在「一器一花」共同代表として名を連ねています。
交際から結婚へ、そしてパートナーからビジネスパートナーへ。2人が歩んできた道のりと、心境の変化を尋ねました。
結婚後の心の変化
取材当日は、2人が結婚してちょうど1カ月の日。結婚後の生活や心境の変化について、莫樂は「入籍の2〜3日前まではいつも通りの感じだったけど、いよいよ入籍となると急に緊張しました」と言います。「(結婚を)簡単に考えすぎてたかもって。大晦日はどう過ごす? 彼の家族と一緒に食事をしたほうがいい?とか…考えなければならないことがたくさんあることに気づいたんです。 その時初めて、あぁ私たち本当に結婚するんだなって、実感しました」
入籍を前に、源と莫樂は、二人の将来や不安について話し合う場を設けたそう。それは、一緒に解決策を考え、お互いのことをもっと深く理解するための「討論会」でした。
源は、交際当初から結婚を見据えていたため心境にはあまり変化がなかったと言います。ただ、結婚後のお互いの家族との関係について不安を感じる莫樂の気持ちも理解できました。
「お互いの家族を何て呼べばいいのか分からなかった。莫樂の母親は、まだ私の存在を受け入れる準備ができていないのではと心配になって…。親密さがありながら、負担にならないよう、彼女を “辣妹(la mei = イケてる女の子、ギャルの意) “と呼ぶことにしました」
そして源は、結婚しても2人はこれまでと変わらない関係ではあるけれど「もっとロマンチックに」と自分に言い聞かせていることを教えてくれました。
「私はざっくりした性格で、あまりロマンチックなタイプではないんです。でも、結婚は長い付き合いになるので、お互いに思いやりを忘れないようにしないと、時間が経つにつれて、小さなことを忘れてしまうと思うんです」
愛しの恋人?ビジネスパートナー?そのバランスは
現在「一器一花」の共同代表である2人。源はフローリスト、莫樂はブランドの財務管理等を担当しています。恋人であることと、ビジネスパートナーであることをどう切り替えていますか?という私たちの質問に、莫樂は3秒ほど間を置いて「もう、本当に大変ですよ!」と笑いながら答えました。
「ずっと“調整”している感じです。 恋人という視点で見ると、源は自分の仕事のことしか頭になくて、私のことはそっちのけだと感じることもある。でもビジネスパートナーの視点で見ると、一器一花は創業間もないブランドだから、全力で、どんなチャンスも掴むべき時なんだと思います」
莫樂は、2つの立場を分けて考えるよう心がけていると言います。
「“相手が自分の人生を邪魔している、楽しみを奪っている” という感情で、相手や自分を責めるのは悲しい。一人でも旅行に行ったり、映画を観に行ったりして、楽しく過ごせます」
また、莫樂は感情的になりやすいタイプであることを自覚していて、一人の時間に「恋人役」「ビジネスパートナー役」2つの視点で心の中で対話することで、冷静になって感情と向き合えると話します。
働き方も全く違う2人は、意識してバランスをとるようにしています。源は熱中型で、夢中になると時間の概念もなくなるほど。一方、計画的な莫樂は「退社時間」を決め、夕食後はそれぞれ好きな時間を過ごすよう提案しています。
源は「結婚してから、仕事に対して焦るような態度を改め、人生に余裕を持つようになった」と話します。
「恋人」の時と「ビジネスパートナー」の時の性格は全く違う、という莫樂。仕事では源に少々厳しく、思ったことをそのまま表現するが、「いくら自分の言ってることが正しくても、態度には気をつけなくちゃ。相手を尊重して、パートナーだからと言って偉そうにするのはダメ」と常に自分に言い聞かせているそう。
恋人と、ビジネスパートナー。そのバランスを取るには、長い訓練が必要だろう。 自分に正直になり、お互いを理解し、感謝すること。小さなことだけど、これらの積み重ねが、一番大切なことです。
認められようが、認められまいが、私たちはここにいる
9月に入籍した2人。莫樂は「同性婚は平等を追求するための1つのプロセスだと思っていたのですが、努力したことがこんなに早く実現するなんて…ちょっと不思議な感じ」と、小さな感動を覚えた当時を振り返ります。
自分を認め、受け入れること。莫樂はこれまでずっとその方法を考え続けてきました。「何か劣等感のようなものがずっと心の中にあって…自分には原罪があるのかなとか、何かを隠したい気持ちがずっとあった。 なぜ、道端で恋人とハグできても、結婚の資格はないんだろうって」
社会情勢が少しずつ変化している今、莫樂はもう自分を隠すことをせず、本当の自分を表現しようとしています。「 “未知”を恐れ、私たちの “あり方”を認めようとしない人も多いかもしれません。 でも、あなたが私たちに同意しようがしまいが、私たちは実際に、ここに存在しているのです」
源は「小さいころから分厚い “温室” の中で育ったので、同性婚をめぐる国民投票の結果が出たとき急に、社会は思ったほど平和ではないことに気付いたんです」と話します。
籍を入れたことで、社会的な安心感が生まれ、親族との関係も変わりました。制度が承認された時には、同性婚を受け入れるには保守的だと思っていた親族から「同性婚の承認おめでとう!いつかあなたのパートナーを家に呼んで、一緒に年末年始を過ごせますように」というメッセージが届いたそう。
LGBTQをめぐる平等な権利の問題は、まだ “発酵段階” だが、「作られている『パン』は、すでに私たちが想像できる未来です」と微笑みます。
「愛ってそういうことでしょ!」
愛って何ですか?私たちが2人に尋ねると、源はすぐに「私にとって愛とは、すべてを包み込むこと。愛は、あって当然のものじゃない。愛があることに感謝しなくちゃ」と答えてくれました。源は、莫樂と母親が友人のように接しているのを見て、自分もこんな関係になりたいと思ったそう。「母親にありがとうと言ったり、温かい言葉をかけたり、ハグしたり、家に電話をすることが多くなった」と笑います。
莫樂は、愛とは空気のようなものだと感じています。「 存在しないように思うかもしれないけど、愛を感じるための第一歩は、自分で愛を認識すること。 愛の形は人それぞれで、自分の愛が、愛と言えるのかどうか、悩む人もいるかもしれません。 でも、人を傷つけない限り、それは愛なんです。愛を感じ、認識することを学ばなくてはね」
2人は、ちょっとした愛情表現の習慣も教えてくれた。 「毎日、我愛你!(=愛してる)って言い合ってるよ!朝、家を出る時間が違っても、起きる時にベッドでハグをするんです」2人はお互いの顔を見合わせながら「愛ってそういうことでしょ!」と笑いました。
「一器一花」のブランドストーリー
最後に、彼らのブランド「一器一花」について、その背景にあるストーリーを聞きました。「一器一花」は、花だけを販売するブランド。その理由はシンプルで、花には心や祝福の気持ちが込められているからだと源は言います。 莫樂も、源と出会うまでは花は特別なものという意識があったが、今では花が人と人との距離を縮め、花によって空間が変化し人を魅了するということに気づいたと話します。
源が手がけるフラワーアートには、自身の人生観が反映されている。「芽が出て、枯れてく花の一生の中で最高の状態をお客様にお届けすることが、フローリストの仕事です。オーダーメイドを受ける時は、贈る相手の好きな色からライフスタイルまで色々と聞き、お相手の事を理解してから製作するようにしています。こういう事ができるのが、専業フローリストのいいところですね」
取材当日は小雨が降り、どんよりとした空模様でしたが、2人と過ごした午後は明るさを感じられました。2人のこれまでの努力が、春に花開く途上であることを実感できた時間でした。
台湾版Pinkoi Zine(原文)
取材:Joanna & Annie
編集:Annie
攝影:Nicholas
日本版Pinkoi Zine
翻訳・編集:Nana