Pinkoi Design Awards(以下、PDAs)は、2022年の創設以来、日常に彩りを添える体験をもたらすデザインブランドにスポットライトを当て、世界中の専門家や審査員と共に『デザインの力』を通じてどのよう生活を変革し、ブランドの信念を伝えるかを探求してきました。
今年のPDAsは「デザイン・質感」×「ビジネス展開」×「サステナブル」の3つの要素を軸に、5つのデザイン賞を設けています。その中で、環境と社会への配慮と実践に注目する「Sustainability賞」が新たに設立されました。
ESGとサステナビリティは、今や消費者のお買い物やライフスタイルの選択において重要な概念となっており、ますます注目を浴びています。Pinkoiからも、素材の選定において環境への配慮があるかどうかや、デザインと製造のプロセスがデザイン思考と美意識を通じてサーキュラーエコノミーに好影響をもたらせるかを注視しています。今回の「Sustainability賞」では、地球環境と社会的な課題に関心を寄せ、実際に成功を納めているブランドに焦点を当てています。
今回は、タイのエコデザインブランド「QUALY」、台湾初のフェアマインド認証貴金属を使用するジュエリーブランド「mittag jewelry」、ヒノキオイルの研究に情熱を注ぐバス用品ブランド「檜山坊」、そして台湾のスキンケアブランド「GREENVINES」の4ブランドが選ばれました。
最優秀賞|GREENVINES:グリーンライフの毎日を
台湾でサステナビリティと言えば、必ず挙げられるスキンケアブランド「GREENVINES」。サステナブルな暮らしへの推進を積極に取り組むGREENVINESの創業者の1人である廖怡雯氏は、「サステナビリティ」は個人の生活とデザインの考え方に落とし込むべきなことであり、GREENVINESは、「より多くの持続可能な選択肢が日常生活に芽生えること」を信念とし、その実現を強く望んでいると述べています。今回の受賞はまさにこの理念が熟成したような象徴でもあり、同じくサステナビリティに関心を寄せているブランドたちと交流できて、とても意義深い経験となっているともコメントしています。
ブランド設立から13年。GREENVINESは2022年から「マルチブランド」戦略に注力し、新しいブランドシリーズを展開する際には、持続可能性の理念を取り入れることにも重点を置いています。廖氏は、商品の開発において、どのようにしたらその商品を使用することで、消費者の生活をよりサステナブルなものにできるかを常に考えています。「例えば、ハンドソープの1回の使用量が、実際には思った必要な量よりもはるかに少ないことをご存知でしょうか?」
「無駄なく使いたい」という理念のもと、GREENVINESは商品開発に多大な努力を注いできました。2023年に導入した泡ハンドソープも、持続性を実現のために特別にムースの質感に仕立て上げられました。廖氏曰く、ムース状だと使用量をよりコントロールできる上に、泡で手を包み込むことで、しっかりと汚れを落とすことが可能だそう。同じ洗浄効果を保ちながら使用量を削減することで、結果的に無駄を減少することができるのです。
企業文化の構築からブランド理念、商品開発、そして社会課題へのアプローチを通じて、GREENVINESは「持続可能な生活」を広める役割を果たしています。廖氏は、2017年から毎年実施されている「21日間のグリーンライフ」イベントについても言及しました。
このイベントは台湾の環境情報協会と共同で開催され、過去7年間で多くの関心と参加を集め、現在では台湾で最大のアースマンス(Earth Month)イベントの一つに成長しました。
「21日間のグリーンライフ」の目的は、「環境に優しい考えを実際の行動に変える練習」です。廖氏によれば、サステナビリティと地球環境は非常に重要な課題であり、一部の人々は重荷に感じてしまうかもしれません。しかし、「21日間の練習を通して行動を習慣化にすれば、生活に小さな変化をもたらすことができる」と述べています。共通の関心事に基づいて、サステナビリティに共同で取り組むことで、従来とは異なる意義を持つ活動となっています。
「従来とは異なる」とはどういうことなのか。廖氏は「『21日間のグリーンライフ』は企業のスポンサーを受けておらず、プラットフォームやイベント企画もオープンな形式を採用しています。持続可能な使命を持つ企業やブランド、誰もが自由に参加できるものなんです」と笑顔で続けました。
当初は1、2社しか参加していなかったこのイベントが、現在では100社以上の企業が共に参加する規模に成長してきました。企業の枠を超えて共通の目標に向かっている姿勢こそが、「21日間のグリーンライフ」がこれまで継続し、影響力を広げることができた鍵でしょう。
優秀賞|檜山坊:世界に台湾を香る
2012年に設立されヒノキ精油入りのバス用品ブランド「檜山坊」。創業者はガンと慢性肺疾患を患った父親を看護するために、マイナスイオンに満ちた烏來と太平山に家族を連れて行きました。茂みに覆われた山林の中で、彼らは澄み渡る青空とシンプルで純粋な静けさを感じたと言います。
ブランドは現在10年以上の歴史を持ち、「勇兄さん」の愛称で親しまれる創業者の李清勇氏は、「父親が森林が好きだったので、最初は苦労して山へ行かずとも、森をそのまま持ち帰ることができないだろうか、というシンプルな考えでした」と振り返ります。自身の人生経験から、檜山坊の2人の共同創業者は、台湾の国宝であるヒノキが非常に純粋な品質を持っており、人々の身体と心に安らぎをもたらせることを理解したうえで、「森林」を通じてお客様にもその大きなパワーを共有したいと思い、ヒノキの世界に飛び込みました。
共同創業者の黃素秋氏は、「ブランド創立当初から、私たちには世界にこの香りを通して台湾を知ってもらいたいという願いがありました」と述べています。長い間、台湾には代表的な香りがないと感じていた彼らは、台湾の国宝であるヒノキを通じて、海外の消費者が台湾の素晴らしさを香りによって感じてもらいたいと考えました。
「森林を持ち帰る」というコンセプトから、「台湾を世界に紹介する」という目標に向かうブランドの発展過程を経て、檜山坊は技術、商品、ブランド、サステナビリティへの意識を継続的に向上させています。2018年からは、台湾の国家発展委員会との地方振興特別展示、外交部との国慶節ギフティングなど、さまざまな提携を結んでいます。ブランドにとっても非常に意義深いコラボレーションだといいます。
また、環境保護と持続可能性についても積極的に取り組んでいます。「私たちは最初から『自然から得る、自然に還す』という精神を持っています。ブランドを創立して10年経過した2021年からは、持続可能な生活への意識を大切にしています。例えば、パッケージデザインや原材料などもより厳しく選定しており、サステナビリティは、檜山坊が過去から現在、そして将来にわたって取り組んでいる重要な項目です。」
黃素秋氏は、ブランドの成功は一瞬で成し得ることではなく、自身も檜山坊も例外ではないと強調しました。「ここ数年、私たちは持続可能性の概念をブランドの核心に組み込む方法を考え続けています。例えば、精油自体の原料や、シャンプーや入浴用品の成分に環境に害を及ぼす高濃度のアミノ酸が含まれていないかどうか、商品パッケージにリサイクル可能な設計に変更できるかなど、企業の社会的責任を意識し、環境の持続可能性を私たちの使命としています。」
ブランドに社会的使命を持たせることは、創業者の2人がインタビューの中で強調したポイントです。その過程でコストの調整や、原材料の価格上昇に対応しなければならない困難もあるかもしれませんが、彼らは理想を実現するためには、すべての選択に価値があると信じています。
「ブランドのサステナビリティへの取り組みが評価されると、ブランドの影響力も大きくなります。そして消費者が消費者に、ブランドがブランドに影響を与え、このような連鎖が広がり続けるからこそ、私たちが持続可能な生活への選択肢を増やすことが叶うのです。」
優秀賞|QUALY:プラスチックの「原罪」を捨て、新しい始まりへ
親会社が有名なプラスチックの射出成形工場であるタイブランド「QUALY」。本来はOEM製造をメインに取り扱う工場ですが、デザインとマーケティングのプロフェッショナルである2人の息子が経営を引き継ぐと、一連の変革と展開へと舵を切りました。QUALYの設立も、その第一歩でした。
最初から、QUALYのブランドコンセプトは非常に明確で、「環境に優しいデザイン」という理念を製品に取り入れることでした。プラスチックは結局のところ環境に害を及ぼす原材料です。兄弟2人はこの「原罪」の上に、需要のある「実用的」な商品開発に焦点を当てることにしたのです。QUALYの商品は、日常的に使用され、自然の要素を生活に取り入れていけるものであるべきだ、と彼らは考えました。
「この4、5年、QUALYは環境保護に全力を注ぎ、すべての商品に新しいプラスチック材料を使用しないようにしました。ほぼ100%がリサイクルプラスチックを使用しています。そのため、新型コロナが発生する前から、ヨーロッパ市場で大きな反響を呼んでいました」と、台湾市場の代理店であり、創業者の2人ともとも親しいJason氏は語りました。ほとんどの消費者は、リサイクル材料から作られた製品に対して許容度が高くないとの現実もあります。その主な理由は、新しい原料で作られたものほど仕上がりがよくない傾向にあるためです。それでも、オーガニックで人工的でない、無造作な美しさを持っていますと続けて説明しました。
「今回の受賞でより多くの消費者にリサイクル材料を認識してもらい、支持してもらえたらいいなと思います」とJason氏は言いました。実際に商品を受け取った消費者からは、色ムラや黒点、材料の配分にばらつきがあるなどの苦情が寄せられることもあるのだそう。ただし、これらはすべてリサイクル材料の特性であり、またQUALYが人気の理由でもあります。
近年QUALYの2人の創業者は、リサイクル材料に向けた取り組みが評価され、バンコクでは多くの大手企業から支持を得て、リサイクルボトルの供給や新商品の共同開発などが行われています。さらに、世界的なESGトレンドの影響を受け、ますます多くの協力者が現れています。Jason氏は「逆に、協力パートナーから供給されるリサイクルプラスチックが多すぎて、工場の処理が追いつかない事態になっています。その問題を解決するために新しい部門を設立し、リサイクル材料の認証ライセンスを取得しようとしています」と述べました。
持続可能な環境保護から社会への還元まで、QUALYはいつも全力を尽くしています。最近ではイギリスのNGO-EJFと連携し、タイと東南アジアで廃棄された漁網を収集し、その特性に合わせた新しい商品に再利用しています。もちろん、リサイクル材料であるが故に完璧ではないところもあるかもしれません。それでもQUALYは、その不完全さをデザインの特徴として活かし、層としてを重ねることで材料の色ムラや欠陥をカバーし、QUALY独自のデザイン力を示しています。
優秀賞|mittag jewelry:信念から築かれた唯一無二のブランド
2012年に設立された「mittag jewelry」は、Made In Taiwan(台湾製)の略称である「MIT」と、ブランドの意味もある「Tag」との2つの英単語を組み合わせたブランド名です。mittag jewelryは中性的でシンプルかつ洗練されたデザインが特徴で、ジェンダーレスファッションを好む層に向けて自分らしいアクセサリースタイルを提案することを目指しています。
創業者である林鈴微氏は、「デザインの原点は自身のニーズから来ています。自分が好きなスタイルは比較的中性的で、シンプルで洗練されたデザインを好む傾向がありますね。しかし、10年前の以前なら、アクセサリーというのは、女性らしいデザインかラグジュアリーのものがほとんどで、中性的なファッションを好む人にとって好みのデザインやブランドを見つけるのが難しいと感じていました。だから自分で学びに行くことにしたんです」と、大胆な一面を披露してくれました。
林氏によると、2012年当時、台湾のアクセサリー市場は日本と韓国の影響を大きく受けており、大胆で洗練されたヨーロッパとアメリカのスタイルのアクセサリーは市場であまり受け入れられていなかったのだそう。
「時折、エレガントな路線に変更した方が、市場の需要に合っているのではないかと自問自答したこともあります」と林氏は続けました。それでも最終的には、彼女は初心を貫く選択をしました。
「自分自身に疑念を抱くこともありますが、それでも自分の目とセンスを信じています。この世界には男性と女性のように、二元的ではないデザインを求める人がきっといるはずです」と彼女は笑顔で語りました。
起業というのは、孤独な道です。過去に遭遇した困難について、林氏は冷静な口調で軽く触れました。「迷いが生じたとしても、次に何をすべきかを教えてくれるようなリーダーは存在しませんので、起業者は自ら解決方法を見つけなければなりません。もちろん、自分を疑う時もあります。この孤独な道を歩んでいる私は、すでに市場に忘れ去られたかもと考えたりして。しかし、振り返ってみると、このブランドを愛してくれる消費者に支えられていることに気づき、そしてPinkoi Design Awardsを通じて認められ、自信となりました。」
台湾で唯一フェアトレードの貴金属を使用したジュエリーブランドとして、mittag jewelryは2020年5月にはARM(Alliance for Responsible Mining)により成立された「フェアマインド認証(Fairmined)」を取得できました。林氏は誇らしげに述べます。「私は子供の頃から“エコマニア”で、その概念はブランドにも反映されています。私の人生は、一見使い道のなさそうなものを繰り返し再利用したり、変化させて必要な人々に提供することです。」
受賞ブランドの詳細はこちら:Pinkoi Design Awards 2023 受賞ブランドリスト
取材・文/Shopping Design
編集・翻訳・校正/Pinkoi Minghsuan Chen、Dory Nishikawa