2022年に創設されたPinkoi Design Awardsは、優れたブランドとデザインをより多くの人々に注目されることを目指して世界中から参加者を募りました。今年は「デザイン・質感」×「ビジネス展開」×「サステナブル」の3つの要素を軸に、5つのデザイン賞を設けました。「Lifestyle賞」はその中でも、デザインが日常生活にどのように落とし込まれるかを具体的に表現した賞です。より上質な暮らしを追求している新世代の人々の願いを反映ししていると言えるでしょう。
Pinkoiにとって上質な暮らしとは、美にこだわったデザイン、最適なユーザー体験、革新的なアイデア、共感を呼ぶストーリーなどの要素を組み合わせることで、日々の生活をより豊かにするものです。今回は、これらの要素を実現できるブランドに焦点を当て、4組のブランドを選出しました。
独自に開発されたソフトセメントで、異素材同士のコントラスト美学を表現する「CELEMENT LAB」、美しい生活を追求し、温かみのある照明器具やインテリアを展開する「MoziDozen」、アルミ製の浮遊自立ペンで広く知られる「novium」、そして上質で可愛らしいデザインで人とペットの絆を結ぶペットグッズブランド「paipaipets」の4ブランドが選ばれ、2023年の「Lifestyle賞」に輝きました。
Lifestyle賞
最優秀賞|CELEMENT LAB:柔と剛の対比から生まれた美学、生活用品に新たな進化を
CELEMENT LABの設立経緯について、創設者のSwank氏は「最初はブランドを立ち上げるなんて予想していなかったんです」と振り返り、「ただ作ることが好きで、大学の仲間を誘って一緒に何かやろうと思っただけです。そして、作品のために展示会を企画していく中で、その中に『ソフトセメント』という素材をどのように表現できるかを実験したりしてた」そう。
その展示会でソフトセメント製品がかなり好評だったため、販売を考え始めました。その後商業市場へ進出する際には、より大規模な運営や在庫管理が求められ、本格的にブランドを立ち上げることになったのです。
ブランドを創設する際に、Swankはブランドのコアコンセプトを明確にしました。「視覚的にも触覚的にも、ソフトセメントのコントラスト美学を表現すること」がその中心となります。「最も特徴的なのは、見た目は固くて粗い印象ですが、実際に使ってみると柔らかいという点です」と彼は述べました。
ブランドの代表的なベストセラーである「岩せっけん」を例に挙げると、ザラザラとした角張ったテクスチャーの表面が、時間が経つにつれてどんどん丸みを帯びていきます。また、椅子やペンダントライト、コースターなどのインテリアアイテムも、固い印象の外観にさまざまな感触と質感を表現し、この対比と美しさを同時に消費者に楽しめるようにしています。
CELEMENT LABの創作活動は2013年にスタートし、2015年に正式にブランドが設立され、今年で10年目を迎えます。最初は単なる創作好きから撒いた種が、独自のコアコンセプトを持ち、幅広くライフスタイルアイテムを展開するブランドまでに成長しました。
PDAsの「Lifestyle賞」の最優秀賞を受賞したことは、チームにとって大きな肯定感であり、創作活動とブランド運営に対する自信を高めるきっかけにもなったとSwank氏は感謝を述べました。また、ブランドの成功は、単に消費者の好みだけでなく、素材をはじめ質のある商品デザインに基づいて確立されるものだということを、今回の受賞を通じて再確認できたと言いました。
もちろん、受賞はゴールではありません。CELEMENT LABとSwank氏には、まだまだ計画や成長が待っています。近い将来、岩せっけんは新しいモデルに進化し、顔だけでなく全身で使用できるようになる予定です。さらに、今後の3〜5年間では、彼らはカスタム家具の設計に取り組み、カスタム可能な模様や独特なテクスチャーによって、それぞれ異なる表情を持つユニークなアイテムを提供していく計画も進めています。このように、段階を追ってソフトセメントの精神をさらに多くのプロダクトデザインに取り入れることで、CELEMENT LABの美学が日常生活のあらゆる場面を彩ることができるでしょう。
優秀賞|MoziDozen:日々の感動を、心温まる木作インテリアに転換する
2009年に創設された台湾の木工設計ブランド「MoziDozen」。最初は「ものづくりが好きで、友達に何かを作ってプレゼントすることが好き」という思いから始まったブランドです。「当時は兵役中で、ある休みの時に汽車に乗っていて、何か身につけるものが欲しいと思い木製のペンを作りました。そして友人がそれを見て買いたいと言ってくれました」と、創設者の奕達氏は振り返りました。その経験が、奕達氏が退役後に自身のスタジオを立ち上げるきっかけとなりました。
ブランド創設当初は奕達氏一人で活動していましたが、2011年に奥さんの薇婷氏も加わり、2人は家庭や子育てと両立しながらブランドを運営してきました。「その後、ブランドはより洗練された印象を持つように成長していきました。作品の方向性も、私たちが日常生活で感じることをより鮮やかに表現するようになった」と奕達氏は語りました。
市場には多くの木製のインテリア用品やランプ、生活雑貨が存在していますが、MoziDozenは差別化を図るために「生活」をテーマにすることを重視しています。「私たちは、人々が日常生活で使えて、一緒に過ごすパートナーとしての存在感を持つアイテムを作りたいと考えています。そのアイテムには、日常の思い出や感動が凝縮され、使用するたびにその瞬間を再び感じられるものであってほしいのです」と彼らは語りました。
例えば、MoziDozenの「エノコログサランプ」は、ひと振りすると点灯する仕組みになっています。「草の上を走ると植物が風に吹かれるような現象をどのように表現するか、そのコンセプトをどのように捉え、それを感じることができる形に再構築するかに重点を置いています」と説明しました。
12年が経ち、奕達氏は最初の何年間はまるで学生のような感覚で、新しい技法やスキル、スタイル、表現方法を一つ一つ学んできたと述べました。そして現在、MoziDozenはユーザーとの交流が可能で、温かみのある雰囲気を生み出すハンドメイドブランドに成長しました。PDAs「Lifestyle賞」の受賞を通じて、さらなる肯定感を得ました。
「私たちにとっては大きな成果です」と奕達氏は言いました。「私たちは常に、自分たちが同じような考え方を持つ人々としか交流しておらず、偏った意見に囚われているのではないかと心配していました。しかし、今回のPDAsの審査員は、ブランド経営者、教授、デザイナー、教師など、国内外のプロフェッショナルな方々で構成されており、彼らからの大きな肯定と励ましを受けることができたことは、私たちにとって非常に意義深い出来事でした。」
美にこだわったデザイン、最適なユーザー体験、革新的なアイデアを重視するPDAsの「Lifestyle賞」は、MoziDozenにおいて素晴らしい具現化が見られます。例えば、ブランドを代表する羊ナイトライトには本物の羊毛を使用しているため、使っていくうちに汚れがついたり変化が生じます。それを想定して洗えるようなデザインになっており、また、習慣に合わせて明るさを調整できる仕様に設計されています。さらに、照明デザインにおいては、修理がしやすいように「穴」の設計をどのようにするかも彼らが思う重要なポイントです。これらすべてが、工芸と商品化の完璧なバランスを実現するための構成要素となっています。
生活の美しい瞬間から生まれたMoziDozenは、消費者が継続して使用したく、購入に値する商品を展開しています。今後は、台湾市場での地位を確立するだけでなく、3〜5年内に海外への展開も計画しています。作品を通じてMoziDozenの生活への感動を伝えるとともに、その気持ちを形にして人々の日常に実現させていくことを目指しています。
優秀賞|MoziDozen:常識を超え、高級文房具の固定観念を覆す革新
オーディオブランド「小山坡」を起点に事業を始め、浮遊自立ペンで広く知られるようになった「novium」。彼らは商品に遊び心を加え、これまでにない斬新なアイテムを次々と展開しています。
ブランド創設者の梁国鴻(David Liang)氏は、「私たちは常に、消費者に提供できる他の価値とは何かを考え続けます。そして消費者のアイデアから集めたその『独特性』を商品にどのように反映させるかを探求しています」と述べました。
「novium」という名前は、チタン(Titanium)を含む多くの金属の名前にある語根「ium」と、新しいものを意味する「nov」を組み合わせており、生活においてまだ見たことのない元素を象徴しています。自立ペン第一世代の「クラシック」モデルから第二世代の「星際」への進化、まさにその名前に込められた意味を完璧に表現しています。
挑戦することは独創性を生み出すと同時に、困難な道のりももたらします。梁氏は創業の3年目には、チームが続けることが難しい状況に直面したことを振り返り、「自立ペンはまだ完成していない時期でした。今考えると、その時に未知の挑戦への対応力と、困難を耐え抜く力を身につけることができました」と率直に語りました。独創的なものを提供するためには何が必要なのかと、チーム全員が考え込む時間でもありました。
「この新しい時代には、誰もがスクリーンにばかり向かっていますが、私たちは手書きという行為が人々の生産性や計画能力に大きな助けになると信じています。ペンを再び主役の位置に戻らせることを目標にしています」とnoviumはブランドの方向性を文房具に切り替えた理由を語りました。一般の文房具との差別化を図るために、彼らは上質で創意に富み、新奇さを持ったペンを作り出すことを目指しています。
2015年に設立されてから8年が経ち、noviumは自立ペンを通じて市場を切り開き、自らの地位を築いてきました。そして、2021年にはアメリカのMUSE Design Awardsを受賞し、続いて2022年には星際モデルがタイム誌の「最高の発明」にも選ばれました。PDAsでの受賞について、梁氏は「ブランドにとってもチームにとっても非常に意義深いことです」と語りました。「Pinkoiは、まさに我々のホームのような存在です。最初は成功への道が見えず、市場での成績も芳しくない時期に、ずっとPinkoiに支えられながら、後に大きな成果を上げることができました。この賞を受けることはとても感動的であり、故郷へ錦を飾ったような気持ちです」と心境を明かしました。
Pinkoi Design Awardsや他の国際的な賞による評価により、noviumは今後、北米や欧州市場への進出計画も立っています。従来の代理店販売から、直接消費者に向けて販売するB2Cのマーケティング手法を採用する予定です。中長期の目標として、2030年までに業界大手の「モンブラン」の1/4に追いつき、高級ボールペン市場全体の2%のシェア率を獲得することを目指しています。
台湾での発展については、新しいオフィスへの移転など着実に成長していく一方、これからどのような展望や海外展開していこうとも、noviumの初心は変わらないと彼らは述べています。常に新奇なアイテムを開発し、さまざまな可能性に挑戦し続け、ユーザーと一緒に個性溢れる人生を築いていくことが、彼らの目標なのです。
優秀賞|paipaipets:ペットと人が一緒に楽しむ理想の暮らし
paipaipetsの創立は、ある野良猫との出会いがきっかけでした。
創設者の林珈汶(Fumi Lin)氏はある夜、野良の子猫を拾ったそう。その子猫は生まれたてでひどく弱っており、歯並びも整っておらず食事が困難な状態でした。そこで彼女は、同じインダストリアルデザイン大学院の同級生と協力し、子猫が食べやすいように高さの調整できる食器スタンドを設計しました。
「その時から、ペットのために自分の得意なことを活かすことができるかもと実感しました。ペット用の食器スタンドや小物、家具などをデザインすることで、ペットに関わるブランド創業の旅が始まりました」と彼女は語りました。
ペット用の食器スタンドから始まり、その後、首輪などのアクセサリーやペット家具、猫用トイレキャビネットなどの大型アイテムも展開。その過程で、彼女はペット用家具への消費者需要がまだまだあることに気付きました。
しかし、他の大量生産された一律なデザインのペット製品とは異なり、paipaipetsはそれぞれの消費者やペット、空間に合わせてカスタマイズ可能な商品を提供することを目指したいと考えています。「ペットごとのニーズは違いますし、お家のレイアウトや使い方もバラバラです。それに応じた商品を提供することが、paipaipetsが継続していく上での核なんです」と林氏は述べました。
paipaipetsは安全性にこだわり、台湾CNSに認証されたF1級のホルムアルデヒドフリー板材を素材として選びました。そして、カスタムメイドにおいて、たとえ小さなジャンプ台であっても、たった60cmの空間の中で猫が異なる雰囲気を楽しめるようなデザインを心掛けています。
また、paipaipetsはオンラインのプランニングサービスも提供しています。これにより、消費者はデザイナーに自分の希望や空間の様子を伝えることができ、3D技術を活用して自分にぴったりの空間を作り上げることができます。「もし数年後に引っ越すことになったり、インテリアに新しいアイデアが浮かんだりしたら、気楽に改造できるんです」と林氏は自信を持って語りました。「これが他のブランドが提供できないことです。paipaipetsのデザインは、消費者、デザイナー、そして猫との共同作業で完成したものです。」
今回の受賞について、彼女は「Pinkoi Design Awardsの受賞ブランドの中で、ペットグッズを扱うのは私たちだけでした」とブランドにとって非常に意義深い出来事だと話しました。
「かつてはペットは外で飼われ、家に入ってから初めて『ペット』として扱われていましたが、今ではペットは『家族の一員』になっています。これは人々がペットに対してどんな変化をもたらすべきかを考え始めたことを意味します」と続けました。受賞はチームへの評価だけでなく、国や社会が動物をより大事にしていこうという姿勢が表れています。
「私たちはIT業界のトップ企業にはなれないかもしれませんが、優れたデザインによって人々がより豊かな生活を楽しむお手伝いをしていることに、とても誇りを持っています」と林氏は笑顔で締めくくりました。
paipaipetsはペットの行動や好みに深く研究し、厳選された素材と繊細かつシンプルなデザインを活かし、魅力的なペット家具や用品を数多く提供してきました。さらに、将来は海外市場への進出を計画しています。
その第一歩として、ペットの最期を大切にする「メモリーボックス」のクラウドファンディングを日本で立ち上げました。飼い主の心に寄り添い、愛しいペットとの思い出を身近に感じることができるこのアイテムを通じて、日本市場での本格的な活動をスタートし、今後は新シリーズの商品開発にも挑戦する予定です。paipaipetsは今後もペット・家具・空間において、そして人々との新たな関係や可能性を探求し続けます。
Buyers’ Choice賞
消費者の関与と肯定は、デザイン商品がビジネス市場で成功できるかどうかの鍵となります。今回Pinkoi Design Awardsでは特別に「Buyers’ Choice賞」を設け、PinkoiのユーザーによるP Coinsを使った投票で、最も人気と市場性のあるブランドを選出。その中で、台湾の家具ブランド「LIGFE」が最高得票を獲得し、見事に1位に輝きました。
人気投票1位|LIGFE:リーズナブルな価格で、おしゃれな暮らしを叶える
2017年に台湾とアメリカのEC市場で起業した新進気鋭のインテリア家具ブランド、「LIGFE」。台湾のインテリア業界に新たな風を吹き込み、変革をもたらしています。
ブランドの立ち上げについてお話を伺うと、代表のBert氏は「私たちは、インテリア市場にまだ満たされていない需要があることに気付きました。例えば、賃貸や新卒の方々は上質な暮らしを追求していますが、選択肢が限られています。市場には安価な選択肢や高価な選択肢が豊富にありますが、私たちはその中間を狙い、消費者に第三の選択肢を提供したいと考えています。つまり、手頃な価格でインテリアを改造できる選択肢を提供することです」と述べました。
LIGFEは、鉄製の収納家具を中心に、アイアン特有なブラックスタイルに温かみのある木材を組み合わせたことで、洗練されたデザインをリーズナブルな価格で提供しています。特に、突っ張り機構を活用したシリーズは非常に人気があり、現代においてフレキシブルな家具に対する需要が高まっていることも示しています。
チームが市場調査や、コミュニケーション方法に関しては、Bert氏は、SNSなどのコミュニティを通じて消費者の好みや傾向を把握しているそう。また、評価や意見を真摯に受け止め、それを活かしてブランドや商品の改善に取り組む姿勢も重要だと強調しています。
Bert氏は、Pinkoi Design Awardsが非常に意義深いイベントだと述べました。「Pinkoi Design Awardsの受賞は私たちにとっては貴重な栄誉だけでなく、ブランドが2018年からPinkoiで活動してきた象徴的なマイルストーンでもあります。また、このイベントを通じてチームとファンとの距離が近づき、共に意義ある成果を達成したような気持ちになりました。」
Pinkoi Design Awardsに選ばれたことはLIGFEに対する肯定感だけでなく、さらなる進化に向けてモチベーションを高めるものだとBert氏は語りました。今後は通常の業務に加えて、Pinkoiにてブランド初のクラウドファンディングにも挑戦する予定です。また、4月初旬には台湾台中に初の実店舗を構える計画も進行中で、外装工事が既に始まっており、5月にオープンを予定しています。
Bert氏曰く、OMO(Online Merge Offline)はこれからのトレンドです。「これまで得たエネルギーをオフラインでの展開に活かし、地域に根ざした素敵なお店を作りたいと考えています。LIGFEを応援してきたお客様にとっても、実際に来店くださる方々にも、より充実したサービスと交流の機会を提供し、ブランドが長く続ていくための競争力を磨いていきます」と意気込みを語りました。
受賞ブランドの詳細はこちら:Pinkoi Design Awards 2023 受賞ブランドリスト
取材・文/Shopping Design
編集・翻訳・校正/Pinkoi Minghsuan Chen、Dory Nishikawa