2023年のPinkoi Design Awards(略称:PDAs)に受賞したブランドは、それぞれの分野で高いレベルのデザイン・ビジネス・ブランドの力を示しました。その中で特に「Culture賞」を受賞したブランドは、地域の伝統工芸をデザインを通じて新しく解釈し、文化のスピリッツを永続させる力が注目を浴びています。
Pinkoiは長い間、歴史と文化の保存に対する関心を持ち、現地の伝統文化を新たな方法で解釈するデザインブランドを支援してきました。伝統文化を現地の文化要素、歴史、ストーリーなどと結びつけ、現代的なデザインと融合させることにより、商品を通じて、各地の消費者に異なる文化の奥深さを感じる機会を提供できます。Pinkoiはこのような、「身近に親しんでいる文化こそ、海外に発信していこう」というコンセプトに基づき活動するブランドを応援しています。
今回の「Culture賞」を受賞したのは、台湾固有の赤キヌアを主原料としたスキンケアブランド「子有你(ISUNEED)」、北斎をはじめとする浮世絵をモチーフにした日本の食器ブランド「GINZA ARTWORKS tokyo」、そして台湾で30年以上続く、台湾の伝統工芸と木材を使用したOEMメーカーから創立したインテリアブランド「GIAN」の3ブランドです。
今回、受賞した各ブランドに、自身のブランドへの思いについて伺ってみました。
最優秀賞|子有你(ISUNEED):台湾固有の原料で作られたベビー・マタニティスキンケア用品ブランド
子有你(ISUNEED)を立ち上げるきっかけは、子どもが生まれたことだと創設者のAllen氏が笑顔で語りました。「うちの子は敏感肌で、使えるスキンケア用品や離乳食を探すのに苦労しました」
わが子の敏感肌の問題を解決するために、赤キヌア農家魯瓦氏、通称「ミスター紅藜」に台湾原生の赤キヌアを紹介していただきました。さらに調べると、赤キヌアは一般のキヌアよりも栄養価が高く、敏感肌の子どもの体と肌をやさしくケアすることができることがわかりました。
「当時、台湾では赤キヌアのエキスを抽出した例はありませんでした。ミスター紅藜に相談すると、赤キヌアを提供していただき、ゼロから新製品の開発を試みました。試行錯誤を重ねて、ようやく子有你(ISUNEED)の初期製品が完成しました」と、Allen氏は子有你(ISUNEED)の原点を語りました。台湾の消費者が購入できる、ベビーローションやマタニティのスキンケア商品は、ほとんどが欧米から輸入された商品でした。。しかし、それらの製品はアジア人向けに作られたものではなく、敏感肌のユーザーとって、に必ずしも適しているわけではありません。一方で赤キヌアで作られたスキンケア製品は、子どもの肌の赤みなど敏感肌の症状を抑える働きがあり、さっぱりとした軽いテクスチャーもアジア人の肌質に合うと言われています。
2019年創業以来、子有你(ISUNEED)はブランドデザインから商品開発、ECサイトの運営、梱包と出荷まで、すべてを自社で手がけてきました。「こうした経験があるからこそ、私たちは『自分の悩みを解決できる』ブランドから『みんなの悩みを解決できる』ブランドへと成長しました」と、Allen氏は言います。「今回の受賞は、私たちにとって大きな励みです。地元のベビー・マタニティスキンケア用品ブランドとして、より多くの人に知ってもらえる貴重な機会といえるでしょう。」
さらに、「去年(2022年)から、ほかのスキンケア用品との差別化を図るために、抽出技術を向上させることによって原料の効果を高めました」とAllen氏は述べました。これからもベビー・マタニティのニーズに関心を寄せながら、一般の販売通路をなるべく利用せず、オフラインの店舗で消費者と直接会って交流やコミュニケーションの機会を作ります。さらに、PinkoiなどのECサイトを通じて海外市場に進出し、台湾固有の赤キヌアの品質の良さと子有你(ISUNEED)の思いをより多くの人に知ってもらえることを期待しています。
最優秀賞|GINZA ARTWORKS tokyo:知られざる絵師の作品を届ける
GINZA ARTWRKS tokyoは元々、ブランド創設者のTOMOKI KURIMOTOが広告代理店に勤めていた時期に考案された、社内向けのプロジェクトです。主な目的は、デザインを通じて如何に市場と消費者にメッセージを伝えるのか、その方法を探ることです。多くのアイディアを考案した結果、江戸時代の木版画いわゆる「浮世絵」を取り上げることにしました。浮世絵は日本最古の「商業デザイン」と言われ、その原点と精神を日常の器に転写することで、現代の人々にも知られる存在になることを望んでのことでした。
この度、ブランドがPDAsの「Culture賞」を受賞したことについて、「江戸時代の無名の絵師たちの作品を海外にも紹介できることは、私たちにとって非常に光栄なことです」とKURIMOTO氏は謙虚に述べました。
なぜ無名絵師の作品を取り上げたのでしょうか。KURIMOTO氏はこの問いに対して、葛飾北斎などの有名な浮世絵師の作品をモチーフした商品と比べて、あまり世間に知られていない絵師たちの作品の方がより日常に寄り添っていて、一般の人々の共感を呼びやすいことに着目しています。
技術面に関しては、日本には陶器を焼くための伝統的な技法がたくさんあります。その中で、美濃焼が大量生産に最も適しており、版画を転写する制作にも適しているため、GINZA ARTWRKSの商品はすべて美濃焼の技法を使用しているのだそう。「デザインと制作プロセスでは、日本の伝統的な紋様と技法を取り入れています。浮世絵を選ぶ際にも、四季の移り変わり、動植物、虫、農具、舞妓など、現代人にも共感できる要素を取り入れています。こうして伝統的な文化と工芸を現代の人々にも、少しでも身近に感じてもらえたら」とKURIMOTO氏は語っています。
優秀賞|GIAN 匠家具:伝統工芸を受け継ぎ、文化の記憶と温もりを家具に
GIAN 匠家具のブランド名はイタリア語の「職人(ARTIGIANO)」に由来しています。会社としては、ブランド立ち上げ前からすでに、台湾で30年以上の家具の受注生産経験を積んでいました。2019年には、台湾のオリジナルデザインと現地の職人技術を結びつけ、台湾発の家具ブランド「GIAN」を立ち上げました。
「ブランドの創設者は、台湾ならではの要素を取り入れた家具作りに非常にこだわりを持っている」と、GIANのデザイナー、鄧子軒は述べています。台湾の家具業界の数十年にわたる発展を顧みると、過去の全盛期から現在に至るまで、小規模かつ洗練されたデザインへと、徐々に風潮が変化してきました。そして2019年、創設者は「台湾の家具の生産力とデザイン力を結びつける」という初心を持ち、無垢材やアニリン革などの様々な素材の可能性を探りながら、台湾固有の最高品質の家具とインテリアを開発しようと試みました。
「親会社から独立して新たなチームとしてスタートしたGIANは、小規模な新しい試みから始まりました。」伝統的なOEMメーカーが革新において遭遇する最大の困難は、いかに新たな視点を取り入れながら、創造的かつ先見性のある新たな家具を生み出せるか。「その製品に市場性があり、生産可能であることを最高経営責任者に納得してもらうための根拠が必要でした。同時に、開発段階でリソース不足の問題もありました。『優れたデザイン』を市場に投入し、ブランドの認知度を高めるためにどうすればいいのかが、私たちの挑戦でした」
様々な困難を乗り越え、GIANは2019年の創立以来、大型家具のソファー、テーブル、ベンチから、ティッシュケース、マウスパッド、スリッパなどの小型のインテリアグッズまで、クリエイティブかつ洗練された家具製品を発表してきました。「これからも多様なジャンルで商品展開を行い、より多くの人に知っていただけるブランドとなることを目指します」と鄧氏は語っています。
鄧氏いわく、PinkoiはGIANが初めて利用するECサイトであるそう。今回PDAsの受賞においてブランドにとって最も大きな意義と収穫は、GIANが徐々に自身の価値を見つけてきたことにあると言及しています。同時に、台湾の家具製造業の技術を継承しながら、現代的なデザインを融合させ、ブランドの発展にふさわしい方向性を見つけました。「『Culture賞』を受賞できてとても嬉しく思います。GIANのデザイナーはそれぞれ異なる成長経験を持ち、その経験を家具のデザインに取り込んでいます。私たちの製品には、台湾人共通の記憶やイメージがたくさん詰まっています。『Culture賞』を受賞したということは、これらのメッセージがしっかり審査員や市場、そして消費者に伝わったということです。」
GIANは、台湾人のニーズや馴染みのある文化的な記憶に基づきながら、職人の精神を守り続けてきました。家具を通して、伝統的な技術、皮や木材の質感を家庭に取り入れているのです。家具は家庭を形づくる重要な存在として位置付けられるでしょう。
| 受賞ブランドの詳細はこちら:Pinkoi Design Awards 2023 受賞ブランドリスト
取材・文/Shopping Design
編集・翻訳・校正/Pinkoi Jessica Yen、Dory Nishikawa