タイのアートシーンの拠点として知られるチェンマイで、一人の日本人デザイナーが帽子で世界中の人を笑顔にしたいと奮闘しています。アジアの少数民族の生地を取り入れ、「Lサイズ」帽子にこだわる『 Hat Labo Jam 』のオーナーデザイナー西周(さいしゅう)さんに、そのこだわりの理由とこれまでの歩みをお話してもらいました。
アジアの少数民族について興味がある or 世界の人に自分が作り出した商品を届けたい!こんな夢を持っている方、必見のインタビューです。
アジアの少数民族の個性的な生地作りを守りたい
ーーはじめにPinkoiでも多くのファンを持つ『 Hat Labo Jam 』について簡単に教えてください。
『 Hat Labo Jam 』はタイ・ラオス・ミャンマー・ネパール・中国などアジアの少数民族の個性的な生地を使った「Lサイズ」の帽子専門ブランドです。ブランド名の由来は「Japan」と「Asia」「Minority Mix」のそれぞれの単語の頭文字からとりました。
日本とアジア、そして少数民族や変わり者が混じり合い、JAMセッションを楽しむように、私たちの帽子を通じてお互いが理解できるようになりたいという思いから名付けました。
ーーアジアの少数民族の生地に西周さんが惹かれる理由は?
世の中がどんどん便利になって、合理化されていく中で、年々アジア各国の少数民族の手仕事が失われてきていると感じました。
でも彼女たちが紡ぎ出した魅力的な生地を、帽子を通して新しい形に生まれ変わらせ、「生地と帽子」双方の可能性や魅力を発信したい。そして、そのような少数民族の魅力的な生地が、後世にも受け継がれていく一助となりたいと思っているんです。
ーーこれらの少数民族の個性的な生地はどのように手に入れているのですか?
現在、チェンマイで仕入れと生産を行っております。チェンマイで入手できる生地と、自ら各地に赴き仕入れてくる生地と両方あります。
フリーサイズの固定概念を変えたかった
ーーまた「Lサイズ帽子の専門店」も珍しいですね。どのような理由で大きめなサイズの帽子を作ろうと思われたのでしょうか?
先進国でも新興国でも、昔に比べてみな平均身長も頭周りのサイズも大きくなってると思うんです。その中で従来の「フリーサイズ(Mサイズ)」の帽子がだんだん合わなくなってきているんじゃないかと。
その結果「自分に似合うサイズがない⇒帽子は苦手/嫌い」とか「Lサイズの帽子は地味なものばかり⇒ダサいからイヤ!」という人が意外と多いって気付いたんです。
また、国や老若男女問わず、脳溢血やくも膜下出血に倒れる人も増えていて、他にもストレスや環境汚染、紫外線量増加が原因の薄毛・脱毛に悩む人も増えています。これらの問題解決の少しでも役に立ちたいという思いから、
締め付け感が少なく蒸れにくい
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頭へのストレスが少なく、発病リスクも少ない
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外出やオシャレが楽しくなる
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毎日の生活に“リズム”や“ハーモニー”が生まれる
こんな好循環をもたらすようなLサイズ(59~60cm)の帽子を作ろうと決めました。ただ、帽子後部に“サイズ調整テープ”や“ゴム”を取り付けてるので女性やМサイズの方でも使えますよ。
『 Hat Labo Jam 』の帽子は本当に意味での「Freeサイズ」なんですね。
Q)生地やサイズの他に西周さんがこだわりを持っているポイントは?
アジアの少数民族の生地だけで帽子を作ると個性が強くなりすぎてしまい、洋服と合わせにくくなる。だから、シンプルな生地も組み合わせ、長く使ってもらえるようなベーシックでナチュラルなデザインを心がけています。この2つのタイプの素材の組み合わせから「意外性」とか「新しい価値観」を見つけたとき、すごく嬉しくなるんです。
ーー確かに民族テイスト生地の帽子をコーディネートに取り入れるのは難しそうに感じます。でも『 Hat Labo Jam 』さんの帽子なら、不思議と毎日身に着けられそうです。
はい、実際に今まで帽子に苦手意識があった方から
「外出時に帽子は欠かせなくなった」
「気持ちが前向きになった。自信を持てた。」
「JamHatを通して〇〇族のことに興味を持って色々調べるようになった」
というような言葉をもらったんです。自分の帽子を手に取った人が少しでも前向きにHappyになれたら、こんな嬉しいことはありません!
サラリーマンから経営者、そしてデザイナーへ
ーーたくさんのステキなデザインの帽子。西周さんは小さい頃から帽子デザイナーを目指していたのでしょうか?
子供の頃はデザイナーになるなんて全く考えていませんでした。実はデザイナー、作家として専門的な勉強はしていません。自分で学び、試行錯誤を繰り返しながら帽子ブランドを立ち上げたんです。
デザイナーの西周さん
ーーでは最初はデザイナーではなく違う仕事をしていたんですか?
はい。1997年、私がまだ24歳で社会人二年目の時、東京の印刷会社から中国広東省深圳市にある海外法人へ工場長として赴任したんです。そこで8年間働きました。この時に海外でモノ作りする醍醐味や基礎を学びました。その後、独立しカラオケバー/人材紹介会社/人事労務コンサルタント会社などを経営しました。
ーー西周さんの海外生活は中国からスタートしたんですね。日本を飛び出して色々な事業を手がける中で一番つらかったことは何ですか?
そうですね、工場勤務から独立して数年後、香港での人材紹介業がリーマンショックの影響から廃業に追い込まれて、うつ病を発症したんです。この時12年過ごした深圳から大連へ移りました。
そして未経験だったアパレル&小売り業界で4度目の起業をしたんです。2009年から4年間は帽子ブランドのフランチャイズ加盟店として中国・大連市で3店舗を経営しました。
ーー廃業を経験した後に未経験の帽子のブランド経営をしようと思った理由はなんですか?
実は私は帽子にずっと苦手意識があって、帽子をかぶった経験が無かったんです。でも一番つらい時期に友人を通し、帽子には必ず自分に似合うデザインやサイズがあり、明るく前向きに自分を変えてくれる力があることを教えられたんです。自分自身で帽子を使うようになると、本当に友人の言ったとおりで…。感動しました。
自分のブランドを作りたいという情熱は消えなかった
ーーさらにその後はフランチャイズ経営から、独立して『 Hat Labo Jam 』を立ち上げられました!独立をしようとしたきっかけは?
中国国内の特に小売業における景気が、これからどんどん悪くなっていくと判断したのと同時に、フランチャイズ本部の運営方法に違和感を感じたんです。またずっと自身のブランドを作りたいと思っていて、じゃあやろう!と。
ーーそこから中国を飛び出し、次はタイに向かわれたんですね。
中国でビジネスをしている間も、自分のブランドを立ち上げるのなら絶対に東南アジアでチャレンジしたいと思っていました。16年過ごした中国を後にし、2013年8~9月に40日かけて東南アジア8カ国をまわり市場調査をしました。その結果「小さくモノ作りを始めるならここだ!」と思い、2014年1月タイ・チェンマイに移住しました。
様々な民族のグッズが揃うチェンマイの店舗
ーー本当にお話を聞いているとドラマチックです。常に新しい挑戦をしている西周さんですが、今帽子をデザインしブランド経営をする中で、どんなコトからインスピレーションを得ていますか?
中国での帽子ブランドのフランチャイズ経営の時の経験は今でもとても役に立っています。また、チェンマイで18年間も少数民族の素材を使い、商品作りと販売をしているビジネスパートナー「atelier Ren」さんからインスピレーションやアドバイスをもらうことも多いです。
ーー近年では日本・東京でも活動を始められたんですよね?
そうです。2014年から3年間、チェンマイでネットショップ運営・実店舗での販売を行ってきました。しかし、より多くの人に商品を手に取ってもらいたいと思い、2017年8月より東京での活動も始めました。ただ、仕入れ&生産拠点としてチェンマイへは今後も通い続けます。
心からロマンを感じることにチャレンジしたい
ーー海外での経験が豊富な西周さんにぜひ聞きたいのが「海外に向けてチャレンジをする」こと。海外へのあこがれはあるものの、なかなか行動に移せない人が多いですよね。
「より多くのお客様に自慢の商品をお届けしたい」
「日本国内だけだと競争が激しく、人口減少リスクもあるので不安」
「海外相手の仕事にロマンを感じる」
というのであるなら、大いにチャレンジすべきかと。
とは言え、多くの人が海外への憧れはあれど“言葉の壁”や“不慣れ”からくる「苦手意識・気恥ずかしさ」があるのは当然です。
たまたま私は中国で16年、タイで3年仕事をしてきましたので、外国に対する苦手意識や気恥ずかしさはありません。
中国語は読・書・話がそこそこできます。しかし、英語は受験英語で勉強した程度。お客様と簡単なコミュニケーションがとれるぐらい。タイ語は簡単な挨拶程度しか話せません(笑)。しかし外国語が堪能な友人に助てもらいながら、ブランドを経営しています。
「自分の経験が活かせることは何か?」
「好奇心や適性を感じることは何か?」
「他の人がやっていないことでチャレンジしてみたいことは何か?」
を考え、行き着いた先が今の私と『 Hat Labo Jam 』なんです。
♡ 編集部おすすめアイテム
? この「Super Jockey」はタイの首長族として知られる「カレン族」の織り成す生地と、豚革のつばを組み合わせた帽子。「カレン族」が生み出す生地の特徴は、色鮮やかでなんだかほっこりする不思議な模様。
秋冬の定番アイテムである乗馬帽(Jockey Hat)、今年はカレン族のフォークロアスタイルに挑戦してみませんか?秋冬のシンプルなコーデにスッとはまりますよ。Lサイズの締め付けがないストレスもフリーな帽子。一度身につけると手放せなくなること間違いなしです。
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テキスト:Yoko