旭川の家具メーカーいさみやが制作した子供向け家具の新シリーズ、pon furniture。家庭で簡単に組み立てられるフラットパック式の家具で、“pon”は、アイヌ語で「小さい」を意味します。Pinkoi Japanの事業開発担当者であるデーヴィットがこのコレクションがどのように生まれたのか、代表取締役社長、関口洋平氏にお話を伺いました。
—まずは、いさみやについて少し教えてください。
いさみやは、祖父の関口勇が1950年に創業しました。旭川に自分が家具を作るための工房を構えたのが始まりです。初めの頃は、タンスや棚といった木製の収納家具を作っていました。戦後の高度経済成長期を迎えると、工房で働くスタッフの数も徐々に増えていき、本社の移転を何度か繰り返した後、現在の所在地である旭川市永山に落ち着きました。
その後、私の父がいさみやを継ぐことになりました。父は、バブルがはじける1980年代後半頃まで、主に家庭向けの家具作りからはじめました。その後バブル崩壊による需要の急激な低下を受けて、オフィスや図書館向けのオーダーメードの木工家具製造へと、徐々にシフトしていったんです。それは20年以上続き、日本各地のさまざまなプロジェクトに携わってきました。
左側は、いさみやの旧ロゴ。右側は、pon furnitureのデザイナー、S&O DESIGNの清水久和氏が作成した新しいロゴ。
工房のフロア。事務スタッフを含め、現在いさみやでは計35名の社員が働いています。
—関口さんが家業を継いだことで、変化はあったのでしょうか。
私は、2010年9月にいさみやの代表取締役社長に就任しました。就任当初、すぐには変化を起こしませんでしたが、内心では、そろそろ新しいことに挑戦する時期だと考えていました。
祖父から、「自分の井戸は自分で掘れ」とよく言われてきました。これは人生の道を自分で切り開き、生き残るための新しい「源泉」を見つけなければならない、という意味です。祖父にとっての「井戸」は家庭用家具の製造で、父にとってはオフィス用家具だったんですね。
世の中は、30年前後の周期でパラダイムシフトが起こると考えられています。私が会社を継いだのが、いさみやの創業からちょうど60年経った頃だったので、自分だけの「井戸」を見つける時期、つまり3度目のパラダイムシフトが始まる時期が来ていると思いました。
いさみや三代目社長の関口洋平氏。
—pon furnitureのコレクションを始めたきっかけは何ですか?
pon furnitureのコレクションのデザイナー、清水久和さんとは、2015年、第1回旭川デザインウィーク(ADW)の準備期間に出会いました。40を超える旭川の家具メーカーの歴史や伝統、可能性をより多くの人に紹介することを目的に、旭川デザインセンターで開催されているイベントです。
新しいことに挑戦する絶好のチャンスだと思い、木製の大型遊具やオブジェで構成される子供向け家具の新シリーズ、LiKidsで初めて清水さんとコラボレーションしました。2016年のADWでデビューしたLiKidsは、評判が良かったのですが、その大きさと比較的高い価格のため多くのお客様へ届ける事はなかなか難しく…この教訓を考慮しつつ、子供向け家具というテーマは変えずに、サイズを小さくして、ターゲットを一般家庭に変えることにしました。その結果生まれたのが、小型でフラットパック式のpon furnitureのコレクションです。
旭川デザインセンター内のいさみやのブース。旭川デザインセンターは、旭川の多くの家具メーカーにとってショールームの役割も担っています。
—デザイナーの清水さんとのコラボレーションはいかがでしたか?
清水さんはCanonのコンパクトデジタルカメラ、IXUSシリーズのチーフデザイナーとして有名な方で、工業デザインの十分な経験と、プラスチックやメタルを使った製品作りの豊富な知識があります。その当時、木材を扱うことや家具をデザインすることは、彼にとって未知の領域でした。しかし、経験がないことはマイナスにならなかったのです。業界の通例や何が現実的かという先入観がないことで、アイデアが制限されず、私たちを常に新しい方向へと導いてくれました。
—pon furnitureの制作で、一番大変だったことは何ですか?
子供向け家具という方針を変えないことは決めていたので、早い段階で基本的なデザインはおおよそ決まっていました。しかし一番の難問は、製品自体の構造上の安定性を十分に確保することでした。6歳以下の子供の使用を想定していましたが、現実的には大人が座る可能性も考慮する必要がありました。
私には少し小さいものの、安定感は抜群!
シリーズの中でもっとも小さいスツール。
プロトタイプのテストを何回も実施し、どのくらいの荷重まで壊れずに持ちこたえられるか確認しました。薄い板状の脚は変えずに、構造法を変えて多くの実験を重ね、5回目のテストが終わった後にようやく解決策にたどり着きました。最終的に、200kgまでの荷重に耐えられるようになりました。
見かけによらず、シンプルな構造のスツール。座面と3本の脚が1本のビスで固定されています。
—組立構造が1本のビスだけで固定されているなんて、驚きです。構造だけでなく、色使いも鮮やかで目を引きますね。この配色は、どう決まっていったのでしょうか?
一つひとつの色が、北海道ならではのものを表しています。赤はトマト、黄色はトウモロコシ、オレンジはカボチャ、そして青はソーダもしくは空です。木工家具には通常、黄色、茶色または黒といった、お決まりの標準的なカラーバリエーションが使われます。自然の木目をもっとも際立たせてくれる色だからです。しかし、pon furnitureに関しては、子供が喜ぶものを作りたいという思い、また、慣例とは異なる色でも作ることができるということを、証明をしたいという思いがありました。
—最後に一つ質問です。旭川でやるべきこと、行くべき場所について、個人的なお勧めはありますか?
まずは、やはり旭川デザインセンターです。旭川を知る、楽しむ上で、絶対にはずせない場所です。次は、市の中心部から少し離れますが、上野ファームです。美しい設計の庭園で、英国風庭園を北海道の気候に合わせてアレンジしたスタイルになっています。スイーツや落ち着いた環境でお勧めといえば、き花の杜です。最後に忘れてはならないのが、旭川デザインセンターの近くにある、旭川の地酒、男山の酒蔵です。ぜひ試飲してみてください!
この記事は、 HOKKAIDO TO GOとの協働企画です。HOKKAIDO TO GOとは、北海道の新しい魅力、そして”今”地域で起きている面白い人々やものやこととの出会いを通して生まれている文化を発見し、掘り返し、共有する、というプロジェクトです。
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