香港と京都の意外な共通点って?
7月の特集は『アジアに恋して』。たくさんのアジア各国の魅力を紹介してきました。最終回のテーマはアジアの一員「日本」について。「日本」ことを知りたいと思った時、一番いい方法は海外からきた人に聞くこと。私たちが普段見過ごしてしまうことも、違った視点から彼らは見ています。今回は京都にまつわる書籍を出版されたことがある、香港の有名作家のリンさんに日本・京都に来て感じたこと、そして京都の工芸シーンについて話してもらいました。
Q)リンさんの経歴と今の仕事について簡単に教えてください。
私は香港で生まれ育ち、大学では芸術系の専攻で学びました。卒業後は雑誌の編集者としてキャリアをスタートしたんです。香港にいるときは《CREAM》、《ELLE Decoration》や《明日風尚》という雑誌で働きました。でも30歳を前にちょっと休憩をして今後の私の将来について考えてみたくなり、仕事をやめて京都で日本語の勉強をすることに決めました。京都にいる間にYahoo!のシステムドメインやホームページに関する仕事もはじめました。
Photo:リン ギコウ
今メインで担当しているのは香港の《Obscura》という雑誌です。編集や他の雑誌への寄稿に加えて、香港のアーティストが日本の職人さんとコラボレーションをするお手伝いもしています。また一方で香港人デザイナーアレン・チャン氏が京都にて自身の作品と日本の工芸品を展示するために設立した『Gallery 27』の仕事もしています。大きなことから小さなことまで、展覧会の企画や宣伝そしてトイレ掃除まですべて私がやっているんです。
Q)最初に日本に来たのはいつですか?その時のことを今でも覚えていますか?
最初はただ日本で少しゆっくりできればいいなと。それで自分のこれまで貯めたお金を見ると、ちょうど1年間日本に留学ができるなと気づきました。この時色んな語学学校を探してみたんですが、京都の学校だけが英語の申請書を用意していたんです。
Photo:リン ギコウ
日本に住み始めたころのことは今でも鮮明に思い出すことが出来ます。雑誌の編集者から学生に戻って毎日クラスメートとワイワイ。春は桜を見て秋は紅葉を満喫して、鞍馬へ火祭を観に行ったり雪化粧をした金閣寺を観に行ったり、家のベランダから五山の送り火を見たり…あぁ、本当にいい思い出です。
Q)日本語留学のあと香港に戻り、また日本に帰って来られました。このきっかけは?
語学留学を終え、日本に帰った時に前の夫と知り合いました。そして香港で結婚した後、彼が日本で仕事を探すと決めたので飼い猫と一緒にまた京都に帰ったんです。
Q)二度目は導かれるように日本に戻ったんですね。でもこの時なぜ京都を選びましたか?
実は最初は東京に行こうと思っていたんです。でも3.11の地震後、少し東京に対する印象が変わりました。特に東京は食料のほぼすべてを他の場所に頼っていますよね。東京では農業をしている場所は少ないから。だから大きな災害や何かあった時に、真っ先に影響を受けて生活が困難になるんじゃないかなと。それにその土地独自の個性が強い場所が好きだったので、じゃあ京都にしようと決めたんです。
Q)京都の印象は住む前と今では変わりましたか?
最初に留学したときよりも2回目住み始めた時、まず観光客がすごく増えていてびっくりしました。あと、京都に長く住んで仕事の関係で色んな人と知り合いますが、京都には本当にたくさんの「変な人」がいます(笑)。個性豊かで生活スタイルや仕事、人との付き合い方など自分の特別なこだわりを持っている人が多いです。
Photo:リン ギコウ
Q)京都と香港の似ているところと、違うところは?
似ているところ:
私が真っ先に思い浮かんだのは香港も京都も「商店街」的な文化精神をすごく大事にしていますよね。香港の屯門 / テュンムン、銅鑼湾 / ドラワン、北角 / パッコックなどは似た雰囲気を持っていると思います。その通りに行けば野菜、肉、その他雑貨なんでも買える。香港では日本の商店街のような場所を「街市」と呼んでいます。京都には出町柳、堀川など庶民の台所のような活気ある商店街がたくさん。ずっとこれまで日本中どこでもこんな商店街があると思っていましたが、最近そうではないと気が付きました。
違うところ:
最大かつ決定的な違いは京都には香港のような看板がない!ことです。
Photo:リン ギコウ
Q)京都の文化を紹介しようとおもったきっかけは?
日本語学校を卒業して香港に戻った時、仕事がそんなに忙しくなくて。それに私の仕事はパソコンがあればどこでも完結できます。だからじゃあ何か私にしか出来ない仕事以外のことがないかな?と友達と話し合った時に、『好日京都』の執筆を決めたんです。その後アパートを借りて再び京都に戻りました。
※『好日京都』はリンさんの視点から京都の文化やスポットを紹介した書籍
Q)『好日京都』執筆中に一番苦労したことは?
そんなに苦労した思い出ってないんです。うーん、たぶん出版社を探したことかもしれません。実はある程度原稿を書き溜めた後、出版社探しを始めました。だから取材や執筆を開始したときは本当に書籍として出版できるかどうかわかりませんでした。その後たくさん香港の出版社を回った後、台湾でやっと『木馬文化』出版社が本を出してくれることになったんです!
Photo:リン ギコウ
Q)『好日京都』を出版して、周りの反応はどうでしたか?
みんなが自分のことのように喜んでくれたのが私も嬉しかった。香港の友達は自ら香港でセールスするスポットを探してくれたり、私の代わりに書店を探し本を発表する場を与えてくれました。私よりも周りの友達や協力者が、この本を世に広めてくれました。
Q) 最近はよく「日本の物」に関するエッセイを書かれていますが、日本のものづくりに心惹かれる理由はなんでしょうか?
近頃いろんな機会で日本の芸術家や職人さんと話すことが多くて、その中で気がついたのは「『用之美』つまり実用的であるということが日本の職人、デザイナー、芸術家の根底にある概念である」ということ。陶芸の世界を見ても自然に手にしっくりとくる作りになっているんですね。例えば、急須の大きさと取っ手の長さも、お湯を注いだ時にバランスがとれるように計算され尽くしています。造形の美だけではなく、「使えるか、使えないか」この点にとてもこだわりがある点に、とても惹かれます。
Photo:Photohito
――確かに使う側の目も厳しいかもしれません。実用的なものを好む国民性があるのかも。
はい。それに加えてここ数十年の間に、日本の工芸作家は作品の中に自分個人の意識を込めるようになってきたと思います。「生活をはどうあるべきなのか」自分に問い続け、それを作品に昇華させている。もちろん器の値段は上を見るときりがありませんが、たとえ有名な作家の作品でも5000円ほどで、その世界観全てを家に持ってかえれる。もし自分の生活の中の全てがこだわりぬかれたもので満たされたら…日本ではこんな事が簡単に叶うんです。
Q)しかし最近では手間暇をかけ、細部までこだわり抜く。そんな京都伝統のものづくりの精神が少しづつ失われていいるように感じますが…リンさんはどんな意見を持っていますか?
京都はもともと資源がない場所。京都に都が長い間あったので全国各地の職人や芸術家が集まり、皇族や貴族のために作品を供給していました。このようなタイプの作品はとても高級で、貴族がいなくなった現在では再現するのは本当に難しい。でも茶筒老舗開化堂、西陣織の細尾、刀具の有次などは昔の伝統を守り続けて、今では世界に知られるようになりました。大変な努力をされていると思います。
Photo:開化堂公式ブログ
また、京都には有名な芸術大学や工芸科があり、そこから毎年個性ある作家が生まれる環境が整っています。それに最近素晴らしい若手の工芸家にもたくさん出会いました。
Q)リンさんの特にオススメの工芸家を教えてください。
黒谷和紙のHatano Wataru、若干26歳の陶芸家明主航、草木染めの野村春花さんはぜひ日本の人に見て欲しい。他にも京都に来たならGallery Yamahonにも立ち寄ってみてください。京都の工芸界の発展を肌で感じることができますよ。長年京都の工芸シーンを見ていますが、突然に壊れたり脆くなるような弱いものではありません。
Photo:Haru Nomura公式HP
Q)その他、最近見つけた京都のお気に入りスポットは?
法然院の後ろにある広場
Q)京都を感じるPinkoiの「逸品」を教えてください。
ハンドメイドでひとつひとつ丁寧に編み上げられた花瓶入れ。「暮らしの細部にまで心を行き届かせる」京都の昔からある文化を思い出させます。
1つ1つ粘土をこねて作られたシンプルなピアス。テーマが京都清水の風だそうです。いさぎよく余分なものを削ぎ落としたスタイルが京都に脈々と引き継がれている「侘び寂び」を連想させます。
<編集後記>
リンさんの日本・京都への視線は一般の外国の方と違いとても冷静です。そして愛情に溢れています。本当にいいものや美しいと自分が思うものに、愛情深く接する。昔私たち日本人も持っていたこの態度、今はちょっと忘れがちですよね。今はインターネットを通して世界中のいろんなものがすぐに手に入ります。でもその商品やアイテムの裏側に作り手の愛があること、今度お買い物をした時にぜひ感じ取ってみてください。ちょっとペースダウンして、深呼吸して、ゆっくり触って眺めて。
リンさんのFacebookページです。中国語が中心ですが、写真を見るだけでも十分に楽しむことができますよ。
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テキスト:Yoko