今回のデザイナーズインタビューは京都から、見た瞬間に思わずくすりと笑顔になってしまうようなカワイイ小物を制作販売している『spicaの庭』。日本はもちろんのこと、台湾や香港にも多くのファンを抱える『spicaの庭』デザイナーの服部愛子さんに、制作時に大事にしていること、あの人気キャラクターの誕生秘話などをうかがいました。
ポジティブなバタフライエフェクトを作りたいんです
今日は京都からデザイナーズインタビュー。
『spicaの庭』の服部さん、よろしくお願いします。最初にご自身のブランドのことを簡単に紹介してもらえますか?
はい、『spicaの庭』は私一人で制作・宣伝・販売をしています。主にカバン、ポーチ、ハンカチやブローチなど小物雑貨を販売しています。ブランドのコンセプトはズバリ「ポジティブなバタフライエフェクト」です。
「ポジティブなバタフライエフェクト」って具体的にどんなどのような意味でしょうか?
最初は「蝶が羽ばたいたら、竜巻になる」というバタフライエフェクト※のことをネガティブな意味でしか捉えていなかったんです。
でもクラフト販売イベントに参加した時、自分が作った刺繍作品を見てお客さんが「何これ〜!?」って笑ってくれたんですね。そこから、もしかしたら自分の起こす「小さなポジティブな行動や作品」も巡り巡ると、みんなが幸せになれる大きな現象になるかも!と思いました。
※ほんの些細な事が、徐々にとんでもない大きな現象の引き金に繋がるかという考え。
私が作った「ちっちゃな笑顔の刺繍」をみた人がふっと笑顔になって、またその人の笑顔を見た周りの人が笑顔になって…。こんな風に笑顔がどんどん広がっていったら面白いし、すごく嬉しいです!
すてきですね!今では日本を飛び越えてアジア各国にまで服部さんの生み出した笑顔が広がっていますね。『spicaの庭』は色んなスタイルの商品がありますが、自由にものづくりをしているのにも理由がありますか。
「私はこのスタイルだから」と決めつけてしまうと表現の幅が狭くなってしまいそうなので、はっきりとした『spicaの庭』のスタイルは決めていません。
ただ、私はシンプルでナチュラルなのモノが好きなので、麻生地か綿生地を主に使い、柄は極力ストライプかチェックを選ぶようにしています。他に工夫していることは、カラフルな色合わせを際立たせたいときには、他の材料はシンプルな色・素材にすることです。
技術に対してもその時、その作品で自分が表現したいものが一番引き立つ素材や製法は何だろうと考え、作品のテーマごとに違う方法で作ります。これまでも刺繍や編み物、パッチワーク、イラストなど色んな製法で作ってきました。
原点は西陣織の職人の祖父母の背中をみて育ったこと
同じ世界観の中に色んな「個性」をもった服部さんの作品たち。でもそもそもハンドメイドやデザインに興味を持ったきっかけはなんですか?
子どもの頃から、母が洋裁をしていたので布やボタン、毛糸や道具がたくさん身の回りにありました。作ることが身近な環境の中だったので、自然に絵を描いたりものづくりを始めましたね。
それから大人になって子どもが生まれた事で、赤ちゃんのものを自分で作りたいと思ったところから、本格的にハンドメイドにはまりました。いざ作り始めると、色んな材料で色んなものが作りたくなって…。よし、作ったものを売って材料費を稼ごうと思ったのが『spicaの庭』が生まれたきっかけです(笑)
最初はどんなアイテムを制作・販売していたんですか?
最初はシュシュを作ってネットオークションで売っていました。その頃からブログやSNSで作品の写真を発信していました。またどんなの作ってるの?って聞かれた時のためにすぐ見せられるように、どうすれば写真が綺麗に撮れるのかも研究したり…。そしてブログの写真を見た方から委託販売をお願いされたり、時には私からお願いして少しずつ販路を広げていきました。
その後子どもが大きくなってきて、ハンドクラフトイベントに参加するようになりました。イベントでは作家友達もできて情報交換をしたり、お客さまの反応を間近で感じられるので、かなり鍛えられたように思います。
イベントではお客さまからどんな反応をもらいましたか?
お客さまからは「もう少し大きかったら」「違う色も欲しいな」「鞄はないの?」など色んな意見や要望をもらいました。どんな言葉でもいいから反応がもらえると嬉しくて、リクエストをもらったアイテムをたくさん作り始めました。
その頃はイベントが主で、SNSやblogなどで直接ご縁があった方だけにのみネットを通じて販売をしていました。オンラインはなかなか長続しなかったんですが、Pinkoiだけは不思議としっくりきたのか、長続きして今に至ります。
みんなに助けてもらってspicaの庭がある。だから周りの人を大切にしたい思いが強いんです
でも、ネット上の販売にまつわる制作・宣伝・販売を全て1人でされるのは大変じゃないですか?助けてくれる人は身近にいますか?
基本的に制作、宣伝、販売を一人でやっていますが、家族や友達などいろんな人にかなり甘えて、頼っています。
長年洋裁をしていきた母は私より縫製技術があるのでお願いすることも多いです。写真の知識は妹の方があるので、着画写真などの撮影はよく手伝ってもらっています。他に運営やマネージメント、HPなど技術的なことはエンジニアの弟に助けられています。また制作時のアイデアは3人の息子からもらうことも多いです。
あとはファンの声やアドバイスもかなり取り入れさせて貰っているので ”全部一人でやっている” といえるほど、一人でやってる感じはないですね(笑)
家族と一緒に銀杏拾いに
周りの人にそれぞれ得意なことを協力してもらう。個人作家の理想的なかたちですね。
そうですね。だからこそ家族や友達など、目の前にいる身近な人から大切にすることを忘れずにいたいといつも思っています。どれだけ、ファンやお客さまに喜んでいただいても、家族や友達など自分を大切に思ってくれる人達が笑顔じゃないと意味がないし、身近な人たちがあってのspicaの庭ですから…。
新しいアイディアを与えてくれる息子さんの落ち葉シャワー
思わずくすっと笑顔になってしまうようなかわいい表情の刺繍たち。デザインの源になっているコト・モノってなんでしょうか?
刺繍の笑顔は円空さんから発想を得たんです。
円空さん?
はい、円空という仏師がつくった仏像です。高校の教科書で見た円空の仏像が大好きで、いつも「円空みたいににっこり☺」と思いながら刺繍してます。
Source:SKIPシティ
(円空の仏像を検索して見る)本当だ!服部さんの作品と円空さんの仏像、雰囲気がとっても似ていますね!私たちが普段通り過ぎてしまうようなことからも、様々なことを感じ取ってらっしゃるんですね。
あとは普段の生活の中で目にする空とか、植物とか、子どもの仕草とか、身近にある自然の中から可愛いな、綺麗だな、好きだなと思ったものから発想を得ることも多いです。
あ、でも人でいったら西陣織の職人をしてる祖父母には自分のものづくりのルーツを感じています。昔から工場にはカラフルな糸がいっぱいで、もちろん糸を編んで作られた帯も綺麗なんですけど、雑然と積んであるだけの糸の棚が大好きでした。学生の頃から糸の棚を写真に撮って携帯の待ち受けにしていました(笑)
アイドルではなく糸の棚!女子高生にしては少しユニークな待ち受け画面ですね(笑)。
昔からものづくりの環境の中で生活をして、そこからずっとものづくりを続けている服部さんは、製作中に行き詰まりを感じることはありますか?
もちろんありますよ。行き詰まった時はその作品からスパっと離れます(笑)布製品で行き詰まったら絵を描いて、絵でつまづいたら布製品、それでもダメなら編み物したり、”つくる” ことに行き詰まったら、それからも離れます。読書したり、音楽聞いて歌ったり、ウクレレしたり、スポーツしたり…。そうしてると不思議とまた作りたくなってくるんです。そしていつの間にか作品の前に座っています。
楽しい気持ち、心が軽い時、気持ちがのってる時じゃないと面白いもの、いいものは作れないですから!
ウクレレ!今度聞かせてくださいね!
では制作時、どんな瞬間楽しい!と気持ちが乗ってきますか?
頭の中でイメージしたものが、そのまま迷うことなく、すっと作れた時はとても気持ちがいいです。自分の表現する技術とイメージがぴったりあった!っていう瞬間に、ものすごく達成感を感じます。
では服部さんにとっていいデザインとは?
疑問を持たせるようなデザインです。どうなってんの?なんで?何これ〜!という感情を沸上がらせるデザインが私にとっていいデザインです。あと迷いがないものですかね、すっきりと迷いなく、まとまってるものが強くて美しいなぁと感じます。
人気キャラクターmuuちゃんが生まれたきっかけとは…
では、『spicaの庭』の作品の中で、特にお気にいりの作品はありますか?
どれもそれぞれ違う味があるので、迷いますね…。どれかと言われたらmuuちゃんですかね。創作後に世界観がぐーっと広がっていきました。最初は布小物のキーホルダーだったのですが、ブローチになったり、スマホケースやLINEスタンプになったり。遊び方、未知数!なところが気に入ってます。
muuちゃんの刺繍製作中!
muuちゃん、私もかわいくて大好きです。LINEスタンプまであるとは知らなかった!後で調べてみます。遊び方、未知数のmuuちゃんはどのような経緯で生まれたのでしょうか。
LINEスタンプの詳細はコチラから
ボーダーニットのはぎれで、なんかアニマルなものを作りたいなぁって思ったところから始まりました。思うがままにミシンで下書きなしで縫っていきました。本当は服を着せたかったのですが、ややこしいのでズボンだけはかせることにして…(笑)
こんな感じで自由に思うがままに作ってみると、手足が短くていびつなのができ上がりました。でもなぜかそれが大好評。いびつで、ちょっぴり不細工なのがいいのかぁと。よし、じゃあこのままいこう!って今の形になりました。
きっと決められた形ではなくて、「思うがまま」から生まれたから、きっとたくさんの人から愛されるキャラになったんですね。でもなぜ「muuちゃん」という名前なんでしょうか?
ボーダー好きの友達のニックネームが「すぎ”むら”」=むーちゃんだったんです。むーちゃんってなんだかカワイイ響きだなと思って、ニックネームを譲り受けて誕生しました。
文法を気にするよりも、伝えたい思いのほうが大事だから…
大人気muuちゃんも加わり、毎日制作に忙しくされている服部さんですが、Pinkoiで海外向けに販売を始めるにあたり、特に気をつけていることはありますか?
英語は得意じゃないし、中国語はもっとわかりません!とにかく、文章は気持ちを伝えることが命と思うことにしています。
「購入してくれて嬉しい!」
「問い合わせくれて嬉しい!」
「待たせているので、悲しい!待ってくれてありがとう!!」
っていう気持ちが伝わるように、絵文字や顔文字、時にはイラストや写真も使いながら応対しています。たとえ文法が下手でも、気持ちを伝えることに徹してます。実際お客様も自分の母国語でメッセージをくださいますし、文章がわからなくても、”褒めてくださってるなぁ” とか ”喜んでくださってるなぁ” っていう感情はなんとなく感じられます。まずこの基本的な部分を大切にしています。
でも為替や価格など専門用語や込み入った問題などは、下手に自分で文章を作らず、Pinkoiスタッフさんに翻訳をお願いします(笑)
➪ 心がこもった応対がspicaの庭が愛される理由
では、海外に販路を広げたことで、制作や生活面で影響はありましたか?
自分の作りたいものが今まで以上に、柔軟で自由になりました。日本のお客さまはよく「素敵だけど外では持てないなぁ」とアート色が強いアイテムを避けがちですが、海外の方はより個性的で、ユニークなデザインのものを喜んでくださります。Pinkoi上でそのような外国の方の感性に触れたことで、より自由に発想する力が増えたような気がします。
あと海外で販売するようになったことで、どうしてもパソコンに向かう時間が増えます。だからその分、自分の住んでる場所、目の前にいる人たちを大切にしようっていう気持ちが強くなりました。
ブランドを経営する中で最大の成果は何でしょうか?
創作活動をして、イベントに参加して、お客さまと触れ合って…。この過程の中で自分の夢や生き方を持った人たちと出会えたことが最大の成果です。他の作家の方、pinkoiスタッフさんなど試行錯誤をしながら、夢や理想に近づこうとしている人たち、形や常識に捉われず自由に生きてる人はとてもキラキラして見えます。話を聞きながら「こんなのもありかぁ」って自分の世界をいい意味で壊してくれて、すごく元気をもらえています。
私たちも服部さんの作品から元気をもらっています!あ、こんな色の組み合わせがあったんだ…とか、muuちゃんの表情を見て癒やされたり…。
わぁ、うれしい。ありがとうございます!
そうですね、私の理想は自分の感じるままに素直な表現ができるような人でいたいです。ときどき、社会の常識とか自分が知らないうちに持ってる固定概念が時々邪魔をしてくることもあります。でも素直に表現することでしか、自分が納得できるいいものが作れないと思っています。
そうですよね、私も固定概念の枠を超えられるよう、自分の感じた気持ちをもっと大事にしていきたいです。
では、最後に多くの日本のデザイナーや作家さんは海外での販売拡大にまだ後ろ向きです。ご自身の経験から何かアドバイスがあればお願いします。
最初は怖いですが、思っている以上に海外のPinkoiユーザーさんは良心的な方が多いです。
また、セミナーやデザイナーが役立つ記事など、デザイナーを育てる仕組みがPinkoiには盛りだくさんで、デザイナーとして「作る力も売る力」も上げることができると思います。
もしも不安なこと、対応などで困ったことがあったらPinkoiスタッフさんに相談しましょう!すごく親身に相談に乗ってもらえるので、写真の撮り方、発送、デザイン、お店作り、マーケティング、ブランディングまでなんでも質問して、なんでもやってみたらいいと思います。作り手ではわからない視点での知識をたくさん持ってらっしゃるので、すごく的確でいいアドバイスが貰えますよ。
カバンの中にも笑顔が☺
<編集後記>
インタビュー中に服部さんがおしゃっていた「ポジティブなバタフライエフェクト」ってとてもステキな言葉だなと思いました。何か楽しいことがあって笑顔になった後は、側にいる人にも優しくなれる、たしかにその通りですよね。自分のできることで「ポジティブなバタフライエフェクト」の始まりを私も作ってみたいなと思いました!
今年の秋は雨がとにかく多いですよね。おでかけの予定が雨や台風で中止になってしまった人も多いのでは?そこで私が欲しいと思ったのが、ラッキーテルボーです。楽しみにしているお出かけの前日、そっと窓辺に垂らして一緒に晴れの日をお祈りしたいです。
ラッキーてるてる坊主 / 親子Ver(左)カップルVer(右)
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テキスト:岸本 洋子