小さな点がぎゅっと集まって「わぁ!」が生まれる。
『momomi sato』の佐藤さんがつまようじを使って描き上げるスマホケースに、今台湾を始めアジアの女の子たちが夢中になっている。
佐藤さんはどこの食卓にもあるつまようじを用いて、カラフルな色たちを一点一点手書きで描いていく。初めて作品を見たときに、なんだかとってもワクワクした。きっと私の日常にあるものだけを使って、私が想像もできないものを彼女は作り出すから…。
佐藤さんは武蔵野美術大学を卒業後、有名デザイナーズブランドでアパレル販売員として大好きな洋服を販売していた。ただ、その傍ら趣味としてものづくりを続けていたそう。
趣味として続けていたものづくりを本業にしようと思った理由、そして海外展開に対する熱い想いをゆっくり時間をかけて聞いてきた。インタビューと言うよりは対談のような、そんな時間。
自分がナンバーワンかつオンリーワンになれるものを探して
ー 大学卒業後、趣味として続けてきた『制作』を、もっともっとやりたい!と思ったきっかけは何だったんでしょうか?
佐藤:
好きなファッションブランドで販売員として好きな洋服を売って。好きなものをお客さまに伝えるという点では、すごく楽しかったんです。でも、ずっと「誰かが作ったもの」を売っていると、次第に疑問というか違和感が生まれてきて…。
ー 違和感ですか…?
佐藤:
その頃、アパレル販売員をしながら、自宅でほそぼそと絵を描いたりしていて。それで、販売員として働くよりも「自分がつくったもの」を売りたいという気持ちが、段々と大きくなってきたんです。
佐藤:
既成品の洋服を販売するだけでも、十分に楽しかったので、これがもし自分が作ったものを売ることができたら、めちゃめちゃ楽しいだろうな!って。
ー そこから専業のクリエイターになろうと決めたんですね。
佐藤:
そうですね。そこからはただ絵を描いたり、ものを作るだけでは面白くない。人と違ったことをどうにかしてやりたいと考えて。考え抜いた結果たどりついたのが「つまようじ」だったんです。
ー つまようじで点画!
佐藤:
はい。身近で誰でも簡単に手に入るもので、みんなが驚くようなものを作りたいと思って。そしてまだ誰もやっていないから、「つまようじ」なら自分がオンリーワンかつナンバーワンになれる!と思いました。
小さなスマホケース、制作時間は10時間を越える
ー 遠くから見ると「あ、かわいい柄だな〜」って思うんですが、近づくと本当に大小様々な点がいっぱいで。このひとつひとつが、手で描かれているんですよね。
佐藤:
そうです。例えばスマホケースの大きさなら、ペイントにかかる時間は5時間から7時間位かかります。なのでオーダーをいただいたあと、だいたい2週間ぐらいの時間をいただいています。
毎日使われている道具箱も見せてもらいました。絵の具がいっぱい!
ー 7時間、すごい! 佐藤さんは色の変更や名前入れも受け付けてらっしゃいますよね。
佐藤:
お客さまには、せっかくだから世界でひとつしかないスマホケースを持って欲しいので、できる範囲内でご要望にはこたえています。
ー デザインにはどれくらいの時間がかかりますか?
佐藤:
一度ビビっと頭の中でひらめきが起これば早いです。長くても5時間位で色の組み合わせも考えることができます。でも、自分がこれだと思うものができるまでは、スケッチを描いては悩み描いては悩みの繰り返しで。
ノートにびっしりのアイデアたち
作品以外の価値はきっと丁寧なコミュニケーション
ー お客さまの要望には、柔軟に対応したいとおっしゃっていますが、海外のお客さまとはどんなやり取りをしていますか?
佐藤:
Pinkoiは台湾からのお客さまが一番多いので、メッセージは中国語が多いですね。まずはこのメッセージをGoogle翻訳を使って英語に直すんです。
ー わかります! 中国語 → 日本語はまだまだへんてこな訳がでてきて、精度があまり高くないですよね。
佐藤:
そうそう、いっそ英語に直したほうが理解しやすいので(笑)。それでこちらからも英語で返事を返すことが多いです。ごめんね、中国語がわからないのと一言添えて。
ー 言語上の問題はこれまでなかった?
佐藤:
困ったなーという記憶は特にないかも。もし本当に何を言っているのかわからないときは、必ず「あなたが言いたいのはこう?」と自分の言葉で書いてみて尋ねてみたり。
ー 確かに、母国語同士じゃないなら「尋ねる」ってすごく大事です。
佐藤:もちろん何回もメッセージのやり取りをするのって手間なんですけど。でも、こうやって言葉のキャッチボールを繰り返して、丁寧なコミュニケーションをとることで『momomi sato』への信頼感が上がると思うし、満足度も高まると思うから。ここらへんは販売員をしていたときに、学んだことですね。
ー じゃあ、日本と海外でお客さまが何を求めているのか、何に満足するのかは案外似ているのかもしれないですね。
佐藤:
今の時代って、特にPinkoiのようなクリエイターズマーケット上なら、可愛いもの、完成度が高いものが手に入るのって当たり前なんですよ。だからこそ、私はいつもプラスアルファの価値をつけたいと思っています。
ー 商品以外の価値ということ?
佐藤:
そうです。例えば、オンライン販売なら必ず手書きのメッセージを入れています。少しでも作った商品とともに「私」のことが心に残ったら嬉しいから。
ー 販売ページのレビューを見てもいろんな国の人が、佐藤さんの心遣いに喜んでいますね。
佐藤:
毎回レビューが届くたび、本当に嬉しいんです。海外発送は国内発送と比べると、手間はかかるんですけど、こうやって海を越えて世界に広がった! という感覚がある。そして海外の人が私の作品を気に入って購入してくれたという達成感が大きいです。
商品のレビュー欄には佐藤さんの手書きメッセージも
世界とつながることで分かった、違いを楽しむということ
ー ものを通じて国境を越えて繋がりが生まれるのって本当にステキ。
佐藤:
そうですね。私ももともと堅物で、常識から外れている物事を受け入れがたい性格だったんですね。でも、海を越えて色んな所にいって「自分の標準、日本の標準」が世界では全く違うことを知りました。だから、違うものを受け入れる楽しさや知る楽しさを、私が世界と繋がることでもっと日本の人にも伝えていけたらいいなって。
ー そうですよね、海を出て初めて気がつくことって、実は本当にたくさんありますよね。
佐藤:
そうなんです。日本はどうしても狭い範囲内で物事を決めつけてしまうところがあると思います。世界には私たちが知らない考え方があるって知るだけでも、自分の人生の捉え方が変わる、楽になると思います。
ー 今の話すごくわかる。私も日本の社会の中では、若い頃すでに通るべきレールから外れちゃって。ずっと悩んでた。私ってだめな人間だなって。
旅好きの佐藤さんだから出てくる発想がおもしろい
ー でも台湾に住み始めると、当たり前なんですけど、みんな日本のこうあるべきという価値観なんて知らないし。そんな環境の中で、初めて肩の力が抜けたような気がします。
佐藤:
私を含め日本のクリエイターってみんな同じ思いをしているんじゃないのかな? 私も昔、日本社会に馴染めてないとか言われたことあるし(笑)。でもそんな言葉を投げかけられたときに感じた「いやそうじゃない。」っていう小さな怒りみたいなものが、モチベーションになっているのかもしれないですね。
ー そうですね。でも日本の面白いところって、突き抜けた変な人がたくさんいるってことかも。
佐藤:
台湾に変な人はいないんですか?
ー 台湾は平均的に日本と比べると変な人が多い(笑)。人の目が気にならないという人も多いし。でも日本ってみんな真面目で、社会の規範がしっかり作られている。だからそこを飛び出ようと思うと、台湾以上にパワーが必要だと思う。だから台湾と比べると、飛び抜けた変な人が多いっていう特性はあるのかも。
佐藤:あはは、なんかそれ分かります。台湾はみんな私の作品に対するコメントを見ててもここがすきっていうポイントがバラバラで…。しかもそれをストレートに伝えてくるところがありますよね。
でも日本はみんな空気読んでなかなか本音が出てこない。この「空気」を破るのはなかなか大変かも。
クリエイターとして基礎的な語学の習得は今や不可欠
ー 海外へ自分の作品を広める上で、一番時間をかけていることって何でしょう?
佐藤:
語学ですね。私も自分の作品について作り方とか思いとか直接伝えたいって気持ちが強くて。今は英語と中国語を頑張っています。
ー 中国語はある程度話せるようになると、本当に面白いです。
佐藤:
ですよね。台湾自体が大好きな場所なんで、販売イベントのときにお客さまともっとコミュニケーションがとりたいんです。ヨーコさんはどうやって勉強されたんですか?
ー 私は台湾で語学学校に行きました。1日2時間の授業を週に5日間受けて、あとはひたすら実践。本当に謝謝しか知らないレベルから1年3ヶ月で台湾企業であるPinkoiに入社して…。
佐藤:
すごい! もうペラペラだったんですね。
ー それがそうでもなくて…(笑)。台湾本社には私しか日本人がいなかったから、つたない中国語をフル活用して言いたいことを伝えようと、最初は必死でした。
佐藤:
伝えようという気持ちが一番大事ですよね。今まで独学でなんとなくしか勉強してこなかったけど、この取材がおわったら早速中国語の教室を探します。次に会うときは、一緒に中国語で話しましょうね。
最初、細かい点画で作られた作品の制作秘話をゆっくり聞ければいいなと思い、話を始めた。
しかし、佐藤さんの海外に対する思いや、多様性を認め合いたいという言葉を聞いて、2時間二人のこれまで日本でうまくいかなかった話や、海外での思い出話に花が咲くことに。
佐藤さんは自分のアイディア、デザイン、点画、コミュニケーションでしっかりと海を越えた人たちとつながっている。そしてそのひとつひとつを、心から楽しんでられた。
自分が好きなこと。得意なこと。思いついたこと。
思い切って発信してみよう、そして私もそれを続けてみようと決めた。
momomi satoさんの作品はコチラから
インタビュー・テキスト・写真:東 洋子