日常の中でふと訪れる「新しいものとの出会い」。
あなたはどうその出会いと向き合っている?
それとも、忙しすぎて身の回りの新しい出会いに気づけていなかったりして。
今回は「新しい出会いや縁」を大事に、地域の人と一緒にものづくりを続けている『MERI』のデザイナー草本さんのお話。東北で出会った布ぞうりを、どうにか自分たちの手でも作ってみたいと思った草本さんたち。
でも最初は製作もうまくいかず、周りの反応もよくなかったそう。そんな中、どうやって最初の思いを貫き、周りの理解を得て、布ぞうりを世界に広めていったのだろう。
海外からのお客さんで終始賑わっていた、東京の墨田区にある店舗に直接出向き、ゆっくり話を聞いてみることにした。
ハギレのお礼に送られてきた布ぞうりに一目惚れ…
ー このお店はいつオープンしたんですか?
草本:
『MERI』の本体は江東区にあるニット工場。今の社長が3代目になる、わりと古い工場です。始めは2012年に社内プロジェクトといった形でブランドを立ち上げ、2014年に墨田区のこの場所に店舗を構えました。今は靴下や小物類も取り扱っていますが、スタートは布ぞうりのみの販売をしていましたよ。
ー ニット工場から布ぞうり? どんなきっかけで布ぞうりを作り始めたのかが気になります。
草本:
そうですよね(笑)。もともと工場ではTシャツなどに使われるニット生地を作っていたんです。そしてそれをいろんな会社に卸すという商売をしていました。でも、ニット生地を作っているときって、大量のハギレ生地が出てくるんです。このハギレをうまく活用してなにかできないかなと考えていたところ、青森の布ぞうりを作っている人たちから、ハギレを分けて欲しいと連絡があって。
ー その青森の方とはお知り合いだったんですか?
草本:
いいえ。たまたまネットで検索してうちの工場にたどり着いたみたいで。そのときにせっかく連絡くださったんだし、どうぞって無料でハギレをプレゼントしたんです。そうすると、しばらく経ってから完成した布ぞうりが送られてきました。
ー 偶然あげたハギレが布ぞうりに姿を変えて、また戻ってきたんですね。
草本:
そう、それで履いてみると本当にふかふかで気持ちよくって。それでハギレやリサイクル用の布ではなく、一からデザインをして、布も作って編んでみたら絶対におもしろいぞ! と社長が言い出して…。一緒にやろうと声をかけられたんです。
理想の布ぞうりを求めて試作品を作り、青森にまで通った日々
ー そこから布ぞうり作りが始まったんですね。
草本:
まずは、ぞうりを編む紐の研究から社長と一緒にはじめました。最初はうちの工場にあった機械を使って紐を編んでみたんですが、履いてみると気持ちよくないんです。機械によって目が詰まっていたり、スカスカだったり。毎日のようにいろんな機械を使って試作品を作っていましたね。
ー ぞうりを編む前の紐のクオリティがすごく大事なんですね。
草本:
もちろん、職人さんが編む工程も大事なんですが、紐が良いものでないと独特のふわふわ感は出ませんから。もちろん紐の研究と同時に、青森県までぞうりの編み方を習いにも行っていました。そこで基本的な技術をマスターして、その後は自分たちでもっと履きやすいぞうりはなんだろうって考えながら、編み方にもアレンジを加えていって…。
ー デザインも一見ぞうりには見えないですよね。
草本:
ぞうりづくりを始めた頃、個人的に北欧のデザインが好きで。ぞうりとは少し離れたイメージはありますが、だからこそ面白いんじゃないかなと思いました。
やさしい色合いが特徴のMERIの布ぞうり
草本:
ぞうりっていうと伝統的な響きがあって、少し年配の方が愛用されるイメージを私自身ももっていました。でも私たちが作るものは、もっと若い女性でも気軽に履けるものにしたいなと思って。
それに青森へぞうり作りのために通っていたときに、北欧と日本の東北地方っていうのが私の中でつながったんですね。それで北欧調のやさしいデザインのイメージをふくらませていきました。
職人さんたちはみんな、普通の主婦だったんです
ー ぞうりの制作は、今どんな形で行われているんですか?
草本:
たくさんの人と一緒にひとつひとつ手編みで作っています。私はデザインを担当して、言い出しっぺの社長は本社でぞうりに使う紐作りをしてくれています。また、それ以外にぞうりを編んだり鼻緒をつけたりしてくれる職人さんたちがいます。
手編みの職人さんはそれぞれご自宅で作業をしていただいていて、編んだぞうりを毎月納品してもらっています。1ヶ月に100足も編んでくれる方もいるんですよ!
特別にデザイン画も見せてもらいました
ー そんな熟練の職人さんたちはどうやって探したんですか?
草本:
今『MERI』のぞうりを作ってくださっている職人さんたちは、みなさん以前は普通の主婦だったという方がほとんどなんです(笑)。
ー え、ものづくりをしていた人ではないんですね!
草本:
墨田区内で、ぞうり作りに興味がある人はいませんか?と声をかけて、それに応じて集まってくださった方たちです。やりたいと手を上げてくださった方を、この店舗まで招いて講習会をしました。最初は私も教えるのが初めてだし、職人さんたちも全くの未経験ですから、お互い手探りで作っていっていましたね。
ー 今ではすっかり普通の主婦の方が「職人」になられたんですね。
草本:
そうなんです! 最初の頃は人によって編み方の癖があって、商品の品質が安定しないことがよくありました。でも、今では別々の人が編んでも、まったく同じものが上がってきます。そして殆どの方が60歳を過ぎてから始められたんですけど、すごく楽しんでやってくださっているので、私たちも嬉しくて。
ー 一足編みあげるのにだいたいどれくらい時間がかかりますか?
草本:
まずぞうりのために紐ですが、機械でも1足3時間くらいかかります。職人さんが手編みをする段階で無地のものだとペアで1時間くらい、ボーダーのものになると2時間以上かかります。
お店で紐を編み続ける機械
それに土台以外にも鼻緒部分を作り、それを鼻緒を作る職人さんに渡し、そして鼻緒をすげる、さらに検品をして…工程数でいうと10以上になります。そして沢山の人に関わってもらって初めて1足の布ぞうりができあがるのです。
最初、社内での反応は「えー、やるの?」でした
ー 社内プロジェクトとして始まったこの布ぞうり作りですが、周りの反応はどうでしたか?
草本:
実は最初は会社の人はあまり乗り気ではなかったんです。今までずっとニットをつくってきて、業者さんに卸すというビジネスをしていたので。しかもその本業の方も特に問題があるという状況ではありませんでした。
そこに、社長が急にぞうりを作って一般の人に売ると言い出したから、きっとみんなびっくりしたんでしょうね。私だけが、面白そうって言って、始めたときは社長と私だけのプロジェクトでした。
ー その後、社内の人の反応はどうでしたか? 変わりました?
草本:
私たちがずっと布ぞうりの研究をし、青森まで通い、そして地元の主婦を集めて一緒に草履を作って売ることを続けていく中で、職人気質だった社員さんの反応も少しずつ良くなってきました。
そして注文が順調に入る様になった頃には、これからは一般向けの販売を頑張っていかなきゃね! と会社全体の意識が変わるまでになったんです。
ー 社長と草本さんの粘り強さが実を結んだんですね。
草本:
そうかもしれませんね。最初は何も考えずに無我夢中でした。最近では冬場は寒くてぞうりが履けない、だけど『MERI』のアイテムを使いたいと言うお客さまの声に応じて、靴下づくりも始めたんですよ。
指が分かれているから、ぞうりも着用可能
草本:
靴下は完全に『MERI』のオリジナル商品です。私たちがデザインを考えて愛知県の工場で作ってもらっています。これからも『MERI』の世界観を刺繍アイテムなど色んな分野に広めていければいいな。
私たちのハギレのお返しに青森から布ぞうりが届いたとき、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったです。そしてまさか海外に向けて販売しているなんて、新しい出会いは本当に不思議で、たくさんの可能性を持っていますね。
これステキ!
日常生活の中で、心がピョンピョンと跳ねる瞬間ってきっと誰もあるはず。
私もやってみたいな、私だったらこうやってみるかな…。いろんな思いがあるけど結局動けないこと、も多い。
今回草本さんのお話を聞いて、考えるよりも足を動かして手を動かしてみるって、すごく大事なことだと本当に感じた。そうやって行動した人にだけ、もしかすると想像もしていない楽しい未来が訪れるのかも。
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インタビュー・テキスト・写真:東 洋子
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