Pinkoi Design Award の受賞ブランドから、デザインが文化的な力をどのように変換するのか、また、ブランドのDNAがどのようにイノベーションを起こし今の時代と対話するのかを見ていきましょう。
「ブランドとは、プロダクトの魂のようなものであり、デザインの初心である」 Pinkoiは長きにわたりアジアのデザインシーンを深耕してきました。デザイナーやブランドのための市場開拓だけでなく、多くのブランドの発展にも寄り添ってきました。その中で、大きな影響力を生み出せるデザインの背後には、明確なミッションとブランドスピリッツ、ブランドバリューがあることが分かりました。
2022年のPinkoi Design Awardでは、より多くのデザイナーにとってデザインの価値を根源から考えるきっかけとなることを願い、「Cultured賞」「Innovative賞」の2つの賞を設けました。
「Cultured賞」は、地域の工芸を新しい言語に変換し、デザインを通じて伝統的なクラフトマンシップ、文化のスピリッツを永続させ、時代に流されることのない価値を継承するブランドを発掘することを目的としています。
また「Innovative賞」は、製品やツール、サービスによって新しい文化、新しい暮らし方、新しい生き方を創造し、人々の生活を変える可能性をDNAに持つブランドを奨励するものです。
議論を重ねた結果、第1回Pinkoi Design Awardでは、台湾の大地に光を当て、苦茶油文化を広めることに力を注ぐ「茶籽堂 chatzutang」、台湾茶を世界に広め、お茶の原点と旬の味わいを届ける「琅茶 Wolf Tea ウルフティー」、伝統文化の美しさを核とし、洗練されたデザインで書の芸術と文化を生活に取り入れる「NOW 4 DESIGN」が「Cultured賞」に選ばれました。
また、「Innovative賞」には、世界中のクラフトビールブランドとコラボしながらオリジナルビールキットを発売し、ビール文化の普及を目指す「HanBeer」が選ばれました。
“デザインは過去と未来をつなぐ架け橋”
茶籽堂 chatzutang、琅茶 Wolf Tea、NOW 4 DESIGN、HanBeerの4つのブランドは、主力商品も、ブランドが広めたい文化のかたちも違いますが、インタビューを通して、彼らはそれぞれ異なるやり方で「美しい暮らしで世界をより良い場所にする」という同じ目標を持っていることがわかりました。
台湾の土地の美しさを届けるライフスタイルブランド「茶籽堂」
「ブランドカルチャーは、そのビジョンを出発点として形作られるもの。そうして初めて、ブランドのすべての決断が一貫性を持ち、より遠い世界まで行くことができるのです」
茶籽堂の創業者であるWoodは、茶籽堂の真の目標は「土地の美しさを発掘し、文化的・芸術的手段でその価値を伝えること」であるとし、苦茶油はあくまでひとつの手段に過ぎない、と語りました。
Woodと茶籽堂のチームは、苦茶油と工芸文化やサステナビリティ教育のつながりをリードしてきました。例えば、春池玻璃や華夏玻璃(台湾のガラスメーカー)と連携し、製造の川上から川下まで、より健全な産業チェーンの構築に取り組んでいます。
中国の審査員・謝品華は「製品、ブランド、デザインの完成度が高く、苦茶油の価値を再定義した」と高く評価しました。
また、台湾の審査員・羅申駿は「苦茶油の復活という初心から、製品ラインアップ、価格設定に至るまで、文化や哲学に対するブランドのこだわりが感じられる」と、茶籽堂の潜在力を評価しました。「茶籽堂は、格式設計展策とコラボした台湾の山並みをモチーフにデザインしたり、無氏設計とのコラボで円形デザインをコンセプトにした新ボトルを発売したりと、台湾という土地に深く入り込み、ライフスタイル産業の復興と活性化に取り組んでいます」
こうした試みは、商業的な文脈におけるデザインの意味や、デザインが持つ多くの可能性を深く理解させるほか、創業者が描くビジョンも消費者に示しているのです。
Wolf Tea 心から愛するお茶を世界中に届ける
「”Wolf Teaは細部が違う”と、欧米のお客様からメッセージをいただいたことがあります」。Wolf Teaの共同創業者であるArwenは、Wolf Teaがトップランナーである秘訣は、世界各国のお客様に対する「誠意」だと語る。 小さい頃から父と茶園を訪れ、おいしいお茶に囲まれて育った彼女は、台湾茶の素晴らしさをより多くの人に届けたいという思いから、Wolf Teaの「単品茶(single origin)」を通じて地域の習慣や品種、茶葉の風味を味わってもらいたいと願っています。
Arwen自身が台湾茶を愛し、認めているからこそ、Wolf Teaのマーケティングは単なるプロモーションではなく人の心を動かすパワーを生み出し、Wolf Tea独自の世界観を構築しているのです。
NOW 4 DESIGN 書を現代化させ、そして日常生活へ
筆を手にとって字を綴ることが少なくなり、台湾の小学校では書道が正式な教科でなくなったこの時代に、NOW 4 DESIGNは書道文化の普及というミッションを担うことを決意しました。
モダンなデザインは筆と墨の美しさをより際立たせ、「筆は洗いづらく、収納しにくい」という世間のイメージを一新しています。
書道文化の普及のため、国内外の著名な書家と手を組み、新しい時代の書道文化を創造することで、書道芸術を人々の日常生活の中に取り戻すことを目指しています。
タイの審査員・Montinee Yongvikulは「NOW 4 DESIGNの製品は一見シンプルだが、文化とイノベーションの要素が満載だ。書道文化は、文字を使わずにできる文化交流だ」と評価しました。
HanBeer 自家醸造ビールで、台湾ビール文化形成の一歩を
「これまでにも自家製ビールブランドはたくさん存在していましたが、彼らはきっと”自家製”という技術にフォーカスしすぎていたのでしょう」
HanBeerの共同創業者・子桀は、「私たちにとって、誰もが簡単に自宅で醸造できる自家製ビールキットをデザインすることは、目的へのステップの一つに過ぎません」と話します。
彼らの真の目的は、ビールの味や食感に影響を与えるさまざまな要素を知ってもらい、ビールに対する好奇心を高め、台湾のビール文化をより成熟させることなのです。
タイの審査員・Montinee Yongvikulと香港の審査員・毛灼然は「HanBeerのコンセプトは卓越しており、自宅で試してみたいという衝動とビール作りへの情熱を与えてくれます。」語っています。現代的で斬新な体験デザインですが、ブランド全体のビジュアルやパッケージデザインはこれからの進化が期待されます。
「Cultured賞」と「Innovative賞」の受賞4社のインタビューから、本当にパワーのあるデザインは往々にして目に見えないところに宿るものであり、その原点である初心やビジョンが、すべての変化の原動力となる最強のデザインだと分かりました。
受賞ブランドの詳細はこちら:Pinkoi Design Award 2022 受賞ブランドリスト
※本記事は、台湾「Shopping Design」のサイトにて掲載の内容を翻訳・編集したものです。
取材・文/Shopping Design 謝繕聯
編集・翻訳/Pinkoi エディター Nana