過去、台湾産業では日用品から3C製品(台湾ではパソコン、携帯、家電を指す)までの設計・製造受託を主に手がけてきたため、多くのプロダクトデザイナーは企業に所属していました。そのため、デザイナーがオリジナルブランドの確立に成功した事例は多くありませんでした。
しかしこの10年間、台湾の小規模ブランドが次々と増えてきました。国内市場からはもちろん、海外消費者からもECプラットフォームを通じて台湾デザインに関心が集まるようになりました。
デザイン性の高いECプラットフォームを運営するPinkoiは、どのように台湾のデザインブランドをサポートしてきたのでしょうか?そして台湾でしっかりと拠点を築いたのち、いかにしてグローバル市場へ参入していったのでしょうか?
大稻程地区の一角にある、1949年創立の老舗石鹸ブランド「大春煉皂」。レトロなパッケージに包まれたアイテムが、モダンな雰囲気の棚にきれいに陳列されており、店内には優しい石けんの香りと70年間受け継がれてきた家族の思い出が漂っています。
1980年代〜1990年代の台湾は、設計・製造受託産業が最も栄えていた時代。台湾全土のホテルで使われる石けんの50%が大春によって製造されていました。現在台湾では設計・製造受託が盛んに行われなくなったため、大春は目標をオリジナルブランドの構築へとシフトチェンジし、デザインにも新たな大春の要素を取り入れています。
2017年、大春の3代目である李國榮は8年間務めていたエンジニア職を退職。父から家業を継ぎ、3人のメンバーと一緒に業界を変革させるために奮闘しました。大春は現在大稻程にある実店舗のほかに、PinkoiのECプラットフォームでオンラインショップを開設しており、オンラインとオフラインの双方から消費者にアプローチしています。
近年オリジナルブランドのデザインとその構築に注力し始めた企業は大春煉皂だけではありません。この10年間で台湾のデザイン業界では、起業のブームが巻き起こっています。
2020年の台湾デザイン研究院の調査によると、台湾デザインに関連する企業のうち、従業員が5人未満の会社は56.2%、そして全体の67.5%の企業は過去10年以内に設立された企業であるとのこと。つまり、この10年間でデザインブランドの多くが零細企業から生み出されているのです。伝統的産業である設計・製造受託の担当者であっても、企業の社内デザイナーであっても、オリジナルブランドを築きあげるために、一から再出発しました。
台湾の日常生活に深く浸透しているローカルデザイン
長い間、台湾のデザイン業界の動向をリサーチしてきたLa Vieの総編集長である方敘潔さんは、台湾デザイン業界はこの10年間で大きな変化を遂げたと感じています。
「10年前の台湾デザインは海外のオマージュが多かったのに比べ、この10年で台湾のローカルデザインは深く世間へと普及されていきました」
多くのマイクロデザインブランドの登場は、台湾デザイン業界の発展に関連付いています。その例として、方敘潔さんはこのように話しています。
「2007年に開催された台湾デザイナーズウィークでは、もともと企業の社内プロダクトデザイナーであった多くのデザイナーたちが独立し、起業するきっかけになりました」
また、2010年から始まった台湾文博会は、当初南港展覧館で開催される一般的な見本市でしたが、2014年以降カルチャーキュレーターのコンセプトが追加されたため、松菸地区や華山1914文化創意園区で開催されるようになりました。方敘潔さんはこの件についてこのように評価しています。
「松菸地区・華山1914文化創意園区という中心的地区で開催できるということは、台湾文博会が人の流れを確保できるということであり、バイヤーに対しても期待が寄せられているということです」
デザイナー、デザイン展、デザイン賞などは、かつて台湾の人々にとって遠い存在でしたが、今ではすっかり日常生活に溶け込むように。松菸地区・華山1914文化創意園区に訪れる来場者にとって、食卓の食器のように生活必需品として日常的なものに変わってきました。
今年で48歳になる三星四季青花瓷の創業者、李哲榮さんはアカデミーアート大学のコンピューターデザイン大学院を卒業しました。2014年にプロモーション効果に関する仕事と大学教授の職を手放し、生まれ育った故郷の宜蘭でIターン起業をしました。
彼は入念にフィールドワークを行い、宜蘭の飲食文化や生態環境を陶器制作の一部に取り入れました。2017年と2018年には、文博会の「文化創造優秀賞」と台湾デザイン研究院の「ゴールデンピン・デザイン賞」を連続で獲得しました。
現在、三星四季青花瓷では9名のメンバーが働いており、実店舗や誠品書店などの店舗で販売されているほか、Pinkoiでもオンラインショップを設けています。彼らの商品に描かれているイラストのほとんどは、台湾の田園風景。例えば田園によく出現するシロハラクイナもその一つです。全ての磁器は形成から下絵付けまで陶芸家の手作業で行われています。
インタビューで訪問した際に、李哲榮さんはシロハラクイナのブランドロゴTシャツを着ていました。物腰が柔らかなアーティストとしての面持ちで、私たちにあるお客さんの話をしてくれました。
「おそらく華僑の方でアメリカ在住のお客さんがいるんですけど、台湾に帰ってこられる機会がなかなかないみたいなんです。そんな彼がPinkoiのサイトで私たちの食器を買って食卓に並べたら、台湾に帰ってこられた気分になったと言ってくれて」
小規模デザイン企業はなぜ増加したのか?
なぜ近年5人以下の小規模デザイン企業は急激に増加したかについて、方敘潔さんはこのように話しています。
「環境が整っているとは言え、誰にでもチャンスがあるわけではありません。多くの人が起業をしたいとは思っていますが、市場が小さいため、小規模での経営になってしまうのです」
台湾でデザインブランドを設立するのは大変難しいです。デザイン業界はまだ発展途中であるうえに、近年積極的にオリジナルブラントを立ち上げている伝統産業や企業の社内デザイナーは、過去に行っていたOEMやケースの受注に慣れてしまっているため、ほとんどブランドの構築の経験がありません。
「彼らの本来の専門分野はここではありませんが、オリジナルブランドを作るということはマーケティングからコピーライティング、営業、そして商談までも自ら行わなければなりません」と方敘潔さんは語ります。
設計・製造受託の企業がオリジナルブランドの構築へと主軸を転換するのは簡単なことではないと李國榮さんも深く感じています。
「大春煉皂も伝統産業であり、過去30数年間ずっと設計・製造受託を行ってきました。そのため当初はマーケティングの知識もなく、他社を参考にしたり先輩方に相談したりしながら4年間頑張ってきました。4年目にして、やっと少し手応えを感じられたくらいですね」
また、台湾は国内市場が大きくないため、規模拡大を目指す場合、海外へと販路を拡大するしかありません。しかし、海外へと進出するとなれば、コストやパイプラインが必要に。小規模ブランドにとって、これらは大きな壁となっているのです。
PinkoiのCEO兼共同創設者 顏君庭は、小規模ブランドの増加は台湾だけではなく、アメリカでも目にしてきました。そして傾向として、今後は減少することなく、さらに増えていくと考えています。
「よく考えなくてはいけないのは、これらの小規模ブランドをビジネス化、規模拡大、そしてグローバル化を通じていかに小規模経営を脱却させるか?という点である」
デザインブランドとの提携でもたらす相乗効果
ECプラットフォーム Pinkoiの戦略
Pinkoiには25,000を超えるブランドが出店しており、その多くが台湾のブランドです。なかでも「印花楽 inBlooom」は最も象徴的なデザインブランドの1つです。印花楽のCEO兼共同創設者邱瓊玉は、他2名の創業メンバーと一歩づつブランドの規模拡大に励んできた思い出を話してくれました。
「2011年、私たちは迪化街で1店舗目をオープンさせましたが、なかなか順調にはいきませんでした。そんな状況が2014年まで続き、最近になってようやくリソースを店舗の拡大や、オンライン化へ投資しできるようになったところです」
「まだ文博会が南港展覧館で開催されていた頃に、印花楽を見かけたことがありますが、隅っこのエリアで、たった一つのブースしかありませんでした。しかし現在の印花楽はたくさんの販路を獲得してます。例えば、全聯(台湾の大手スーパー)とコラボし、キャンペーン等も行っています。台湾の一般消費者も、印花楽を一つのブランドとして認識しています」と方敘潔さんは回想しながら話しています。
10年間の時間をかけて、印花楽は小さなスタジオから販路を拡大。これまでに台湾に直営店を数店舗、誠品書店を中心に20店舗以上の流通ルートを持っています。そして日本や、香港・マカオへの海外市場にも広げていった結果、輸出の売り上げは全体収益の10〜20%に達しました。この長い道のりには、Pinkoiがビジネスパートナーとして常に寄り添ってきた過去があります。
邱瓊玉さん:「店舗をオープンした当初、Peter(顏君庭)を含めたPinkoi創設者3名が私たちのところに訪れてくれました。彼らからPinkoiをアジアのEsty(アメリカのデザインECサイト)にする計画を聞いた際には、とても嬉しかったですね。もし台湾またはアジアにデザイナーのためのプラットフォームができたら、大変素晴らしいと考えていましたから」
2011年、印花楽の設立時に、PinkoiのWebサイトにもオンラインショップを開設しました。その年はPinkoiが創立された年でもありました。Pinkoiは販売プラットフォームのみを提供する一般的なECサイトとは異なり、「ブランドを集結させデザイナーのためのデザイン生活圏を作り上げ、ブランドの商品化、規模拡大そしてグローバル化をサポートする」という明確な目標をもって、この10年間取り組んできました。
三星四季青花瓷は創業3年目にPinkoiに参加しました。李哲榮さんは、以前自社サイトの作成を考えたこともありましたが、人件費やサイト作成・維持に多額なコストがかかるため断念。一方、Pinkoiはバックグラウンドや、物流システムも整っており、マーケティングにも注力していると感じたため、最終的にPinkoiでの出店に決めました。
「ブランドはプラットフォーム上での相乗効果が鍵となります」と方敘潔さんは説明します。知名度や、消費者の流れ、そしてマーケティング戦略の柔軟性が高いプラットフォームほど、ブランドを順調に成長させることができます。マーケティングや法律に関する情報などを提供しサポートするほか、近年Pinkoiは日本、香港、タイに支社を設立。海外市場の金融や物流、情報の流れを構築し、ブランドの規模拡大やグローバル化への道を開くサポートをしていきたいと考えています。そして台湾のデザイン業界を盛り上げ、変革をもたらしたいという狙いがあります。
出店だけでなく、コンサルティングまでできるプラットフォームに
顏君庭はデザインブランドのグローバル化を頂上までの登山過程として例えています。1953年以前、かつて一人もヒマラヤの頂上に到達したことがなく、誰も挑戦する勇気がありませんでした。
「しかし一人の人が頂上到達に成功すると、多くの人の考え方が変化していったのです。“彼ができるのに、自分はなぜできないのか?山頂の景色はあんなにも綺麗なのだから、自分も頂上まで登ってみよう”」
先駆者の成功が人々の憧れとなり、多くのブランドにチャレンジする勇気を与えました。
商品化から規模拡大、そしてグローバル化までの過程において、ブランドには長期の育成と指導が必要です。Pinkoiはこの過程で登山ガイドのようなブランドコンサルティングの役割を演じています。出発前にはどのような事前訓練を行うべきか、どのような装備が必要か、そしてどのルートでどこへ向かって進むべきかなどを各ブランドに伝えています。
需要の高い日用品に比べ、デザイン製品は商品化のハードルがさらに高くなっています。方敘潔さんは、デザイン製品なので「一種のコンセプトや消費者が考えたこともない物を販売するべきである」と考えています。そして「台湾ではこの基準を持ったデザイナーが相当少ない」と話します。しかしトレンドに合わせた特殊なデザインコンセプトの製品は、消費者からの反応もとても良いです。
台湾のデザインブランドも商品化の過程で、社会のトレンドに合わせてマーケットの動きに柔軟に対応できるブランドは、消費者の支持を得てビジネスにおいても成功しやすいとPinkoiも考えています。そのためPinkoiでは定期的にブランドと協力し、マーケットの最新動向を共有しています。
顏君庭によると、2018年の政府によるプラスチック使用制限政策の際には、持続可能な材料を使用した環境に優しい商品がヒットし、2019年は新北市の番地変更により、住所の表札をカスタマイズするブームが起きたと言います。また2020年にはCOVID-19の影響により、おしゃれなマスクやマスクケースの売れ行きが好調でした。
もともとブランドの方針として持続可能な環境保護を大事にしていた印花楽は、プラスチック使用制限政策の発令後、関連商品の開発とマーケティングを強化し、業績へとつなげました。また、2020年7月に日本でプラスチックの使用制限政策が発令された際にも、海外売り上げを伸ばすことができました。2020年に台湾でのCOVID-19が拡大した当初、マスクが入手困難になった状況を受け、印花楽は迅速に布マスクを販売。その結果、通常の3倍の売上となりました。
ブランドが商品化から規模拡大、そしてグローバル化へ移行する際に、Pinkoiではさらに深くビジネス思考の実践的操作方法や国際市場における経営マネジメントについてアドバイスをしています。
李國榮さんがPinkoiでの実体験をこのように話してくださいました。
「Pinkoiの講座からECサイトでの出店のコツや、価格設定、及び日本市場でのセールスマーケティングについて学びました。もともとビジネスの専門知識や国外市場の現状を知らないデザイン従事者からすると、とても役に立つ情報ばかりでした」
グローバルIPと提携し、グローバル認知度をアップ
方敘潔さんがリサーチしてきた直近10年のデザイン業界のトレンドと比べると、現在は比較的デザイナーの時代ではなくなりました。10年前に比べて最近では、一般の人々の共感を呼びやすいブランドや製品は多くありません。このような現象はデザインブランドの規模が小さくなるにつれて、流通する商品の量が増えていることと関係があります。
どのように国内や国外消費者の小規模ブランドに対する認知度を上げていったのでしょうか?Pinkoiはこの2年間、スヌーピーやミッフィーとコラボし、シリーズの商品を販売してきました。スヌーピーとのコラボの際には33のブランド、ミッフィーのコラボの際には48のブランドが参加し300種類以上の商品を台湾、香港・マカオ、中国、そして日本で発売しました。
印花楽 共同創業者の邱瓊玉さんはこの戦略に賛同し、グローバルIPとのコラボはグローバル参入において重要な一歩であると考えています。グローバルIPは国際共通言語のようなものです。消費者がそのブランドと国際的に有名なキャラクターとのコラボを目にしたら、「ブランドの価値や商品のデザインスキルに対しての信頼度が格段に上がります」
「国際的に有名な企業とコラボする際には、市場ロジックと原則があります」とPinkoiの広報経理である邱佳葦は解説します。多くの台湾ブランドは立ち上げ当初、自分の作品の制作に没頭するあまり、グローバル化のビジネスモデルが思い浮かびません。
「ですから私たちは、IPとのコラボを通じて各ブランドが、制作や生産、経営のステップへとより早く進んでいってほしいと思っています」
しかし、このような国境を越えたコラボの過程は、決して全てが順風満帆ではありませんでした。
一般的にIP企業と交渉する権利を持っているのは、ほとんどがメーカーであると顏君庭は説明します。PinkoiはECプラットフォームであるため、コラボを計画していた際はIP企業とのコミュニケーションに時間を費やしていました。これまで多くのブランドは一般的にキャラクターを印刷したものをコラボ商品として発売してきましたが、Pinkoiに出店するブランドはデザインスキルを持っているため、デザイン性の高いコラボ商品を生み出し、国際的な知名度を高めることが可能だと考えていました。これを伝えることでIP企業を説得し、提携することができました。
国際的に有名で半世紀以上の歴史をもつキャラクターは、アジアと台湾のローカルカルチャーやクリエイティブデザインクラフトを融合し、新しいアイディアを生み出しました。
2020年と2021年にスヌーピーとコラボし、伝統的なエコバック茄芷袋や台湾式朝食カルチャーとスヌーピーを掛け合わせた商品を販売し、台湾の消費者を驚かせました。さらに2020年にはミッフィーとのコラボで、アジアの48ブランドが合計180種類以上のオリジナル商品を発売。
「Pinkoiとコラボをしたことで多くの革新をもたらすことができた」とMiffy本社が話してくれたと顏君庭は誇らしげにしていました。
グローバルIPとのコラボにおいて、もう一つ難点としてあるのが約数百万(台湾ドル)する多額なライセンス料です。Pinkoiは共同プロジェクトに参加するにあたり、十分な数のブランドを集められたため、分割された金額は小規模ブランドにとっても手頃な金額に抑えることができました。
グローバルIPとのコラボは、デザインブランドにとって良いトレーニングの機会でもあります。大春煉皂は2回ともコラボに参加しましたが、李國榮さんはコラボ商品の制作過程を思い出し、決して簡単ではなかったと話しています。
「IP本社は大変厳しく、細部まで重視しているので、何度も試作を重ねました」
例えば、大春とミッフィーのコラボ商品は3Dを用いて石鹸をデザインしました。ただし、ミッフィーの細くて長い耳を型から外す際に壊れてしまうのが最大の難関でした。最終的に機械での製造と手作業での型外しに変更することで解決。数え切れないやりとりと調整を重ね、IPの求める高いレベルに達することができました。これは同時にデザインブランドの自己スキルを見直す機会にもなりました。コラボ制作から得た経験はブランドが成長するための大事なステップにもなるのです。
オンラインからオフラインへ、海外へ拠点を拡大
ECプラットフォームの出現により、実店舗の販路拡大コストが負担になってしまうような小規模ブランドが光を浴びるようになりました。国境を越え、世界各国の消費者へ商品を届けることもできます。しかし対面接客は、やはり依然としてかけがえのないものです。
オンラインプラットフォームのみでの運営は限界があると感じ、Pinkoiは創立2年目と3年目に提携ブランドを引き連れオフラインでの運営も開始しました。顏君庭はPinkoiマーケティング戦略のポジションをOMO(Online Merge Offline)に設定し、オフラインイベントを実施する際には、オンラインでも同時にマーケティングやPR活動を進行し、オンラインとオフラインの融合をはかりました。
Pinkoiとデザインブランドはコミュニティ型の小規模フリーマーケットから始まり、都市規模、国規模へと発展していきました。オフラインで実際に消費者とコミュニケーションを取ることで、直接顧客からフィードバックを得ることができ、ブランドの露出も増加しました。2015年、Pinkoiは展覧会を企画し、Pinkoiマーケット(品品市場)を開催しました。さらに2018年には海外にも進出し、400以上のブランドが台北、香港、広州、モンゴル、大阪の5拠点での展覧会に出店。合計25万人の来場者が訪れました。
Pinkoiはフリーマーケットや展覧会に加えて、海外でのポップアップストアの開催も計画していました。2018年には香港の深水埗で「香港魂」をテーマにしたポップアップストアや、2020年と2021年には日本の渋谷と香港の尖沙咀でミッフィーのポップアップストアを出店しました。
グローバル知的財産のコラボポップアップストアのほかに、より多くの人にPinkoiブランドと接する機会を増やしてもらうために、Pinkoiは独自のポップアップストアも開設。「店舗の内装に多額の投資を行い、素晴らしいブランドや商品を集め、店舗の空間づくりにも力を入れました。そのため、お店に来ていただいた多くの方に店舗の雰囲気もPinkoiらしいと言っていただけます」と顏君庭は話しています。
近年成果が出ているデザインブランドのグローバル化
2015年から現在までPinkoiの海外収益は10%から30%へ急激に成長してします。これは台湾の小売業界では大変珍しいことです。台湾経済部統計局の調査によると、ほとんどのオンライン及びオフラインの小売業界は海外進出への意識が低く、国内市場のみに焦点を当てているそうです。
企業がグローバル市場に進出する際には大量の資金とリソースが必要なため、企業にとって非常にハードルが高いです。Pinkoiは、2015年10月にシリコンバレーベンチャーキャピタルとGMOベンチャーズから900万米ドル(約2億9,700万台湾ドル)の投資を受けた後、グローバル化の可能性を生み出すためにさまざまな国にローカルチームを設立し始めました。
顏君庭は「もし可能であれば、私たちはブランドに次のステップに進むことを提案します」と話しています。ただし、プロダクト自体の性質でグローバル化が難しいブランドもあるそうです。例えば「三星四季青花瓷」の商品は全て手作りのため大量生産が難しく、海外市場拡大には保守的です。しかし、実は多くのデザイナーは皆海外進出の夢を持っています。
顏君庭は会社設立当初、カスタマーサービスに届くメールに自ら返信していました。そんなある日、一人のデザイナーが彼に助けを求めてきました。
「今日日本からの注文が入ったのですが、詐欺ではないか確認してもらえませんか?」そのデザイナーはまさか日本人のお客さんが自分のデザインを気に入っているなんて考えられなかったようです。
「これまで一度も火を灯していなかった火花が一気に点火したようでした。ブランドにとっては夢の始まりだったと思います。初めて注文を受けた際、より多くの国の人に」商品を届けたいと願っていました」
また、顏君庭は笑顔でこのようにも話しています。
「このような夢をサポートできることは、私たちにとっても非常に重要な責任であり、“甘い”負担でもあります。ビタースウィートのようですね。サポートする際に本当に大変なときもありますから」
Pinkoiは2011年の設立以来、タイミングよく台湾デザイン業界が最も劇的な変化を遂げる10年間を経験することができました。
「Pinkoiがもしあと10年早く設立されていた場合、台湾のデザインブランドやデザイン市場は洗練されておらず、Pinkoiのプラットフォームを支えていけるほどの目を引くブランドはなかったと思います。逆にもし10年遅かったら、すでに多くの人が参入してる分野だったでしょう」と邱瓊玉さんは分析します。
Pinkoiは一部ブランドの海外代理販売を受け持ち、海外支店を通じてグローバル進出に関する業務のサポートも行っています。日本、香港・マカオ、シンガポール、タイで市場を展開している印花楽もそのブランドの一つです。2019年に日本で最も歴史が長いがま口職人と共同で制作したコラボ商品は、日本での売り上げの約80%を占めています。「京都のがま口職人はこれまでコラボをしてきませんでした。ディズニーとのコラボ以外で、海外ブランドと提携したのは私たちとのコラボが初めてでした」と印花楽のCEO邱瓊玉さんは喜びに満ちた表情で話してくれました。
台湾産業に付加価値をもたらすデザイン
ブランドのデジタル化を加速させるCOVID-19
印花楽がグローバル市場に参入するにあたり、他社ブランドとの競争を予想していたため、同業他社の分析や研究を重ねてきました。例えば日本のSOU SOUやフィンランドのMarimekkoなど、彼らのプロダクトラインや事業拡大方式、そしてポジショニングなどを参考にしました。
今回のCOVID-19により、多くのブランドは経営方針としてオンラインに焦点を当てるようになりました。「これからはECへの取り組みを強化していく必要がある」と李哲榮さんも考えています。COVID-19の問題が深刻化している今、海外店舗出店の計画は延期しなければならないそうです。
PinkoiなどのECプラットフォームだけでなく、自社ECサイトを運営しているショップも今後拡大し続けるでしょう。デザインはもともと一種の方法であり、問題を解決するための方式でもありました。過去に製造受託を得意としていた台湾のメーカーやデザイナーが、今ではデザインの手法やメディアのオンライン化を用いて、自分たちの理念を発信しています。これは業界全体が変化する可能性をもたらしています。
記者/戴淨妍、孫嘉君