あなたにとってお茶を飲むってどういうこと?
喉を潤し、友人や家族との憩いの時間を作るきっかけ。今まで私はそんなことを「お茶」に対して期待していました。
2018年初夏。
あるひとつの台湾茶ブランドに出会ったことで、私のお茶に対するイメージ、そしてお茶が私たちの生活に与えてくれることへの概念が大きく変わりました。
山不枯のビジュアルイメージは人と自然が交わる姿を表している
そのブランドが『山不枯Sanpuku』。
彼らの目的は有機栽培されたおいしいお茶を届けることだけではありません。彼らが守りたいものは、美しい里山。お茶を飲むことが環境保護につながるという、彼らの思いを今回は聞いてきました。
ー『山不枯Sanpuku』の名前の由来は?
私たちのブランド名は「山林は永遠に枯れることはない」という意味を持っています。このブランド名にした理由は人と環境がこれからもずっと共存できるように願っているからです。
美しい台湾の山林茶園の風景
私たちはもともと茶園と何の縁もありませんでした。つまり、家族は誰も茶に関係する仕事をしていなかったのです。
そんな私たちが初めて茶園に足を踏み入れたのは学校の実習のときのこと。その実習の中で、台湾ではたくさんの茶農園が無農薬栽培に挑戦しているということを知りました。その時、私たちは自然環境を傷つけることなく生産を実現する里山の精神について学びました。
山不枯のメンバーはみな台湾の森林を心から愛するメンバー
2015年に山不枯を設立しました。私たちが最初に大事にしたことは「自然を安心させるお茶」を作ること。そして飲む人においしい茶葉の風味を感じてもらうために品質を安定させることでした。だから長い時間をかけ、ウーロン茶製法の研究をすることからはじめました。そして2016年末、農園と栽培の契約を結ぶだけではなく、若い茶師に仲間に入ってもらい、山不枯を有機茶園の管理と生産を一括で行うブランドに成長させました。
ー 思い入れがあるお茶はどれですか?
山不枯の商品の中で一番歴史があるのが、『老手路包種茶』シリーズです。
これは台湾の新北市坪林と呼ばれるエリアで生産されています。坪林は台湾でも美しくおいしい水が流れる場所としてよく知られており、茶葉の栽培に適しています。私たちは種の発芽から生産工程に参加しています。そんな風光明媚な坪林にある茶園では1920年当時から行われてきた、台湾の伝統的な製法にこだわっています。
茶葉の収穫後も日光にあて葉をしおらせ、発酵させていきます。こだわり抜いた製法で作られた独特の甘みと香りをぜひ感じてほしいです。また味と変わり以外にも注目してほしいのがお茶の色。老手路包種茶茶の色は透き通った蜜のような美しい黄色をしています。口、鼻、目で楽しめる私たちの自信作です。
一般的な台湾茶は温かいときは香りも良く甘みがありますが、冷めてしまうと苦味が出てきます。しかし『老手路包種茶』シリーズのお茶は熱いときに美味しいのはもちろんのこと、冷めた後も高温のときに感じられなかったな旨味が出てきます。
そしてこのシリーズは台湾政府から有機認証も得ています。安心して飲むことができるだけでなく、お買い上げいただくことで台湾の美しい里山の環境を保護する私たちの活動を助けることもできるのです。
他にも文山包種、老手路包種、佛手烏龍、武夷烏龍、紅玉紅茶…などたくさんの台湾茶を取り揃えています。みなさんもきっと自分が好きな一杯を見つけられると思います。
ー『山不枯Sanpuku』のどんな点が、自然にやさしいお茶と言えるのでしょう?
私たちがブランドを経営していく上で一番大事にしているのが、『Cradle to Cradle』という言葉です。これは『ゆりかごからゆりかごまで』という意味。つまり製品を作る段階から、リサイクルがしやすいか? または自然環境にやさしいものづくりができているかを常に念頭においています。
FSC認証は環境にやさしいものづくりをしている証
だから私たちは有名な台湾茶の産地である高山を選びませんでした。選んだのは「中低海抜茶区」と呼ばれるエリア。そしてそこで自然に優しい栽培と生産方式を作り上げることに決めました。おいしいお茶を作り出すための栽培や製法のこだわながらも、常に私たちのアクションが持続可能かを常に考えています。
また、茶葉を包装している素材にもこだわっています。お茶を包装するアルミパックも分解可能なコーン繊維から作られています。そしてそして外の箱も再生紙を使用しています。食品の安全だけではなく、地球の資源を守ることも重視しています。
ー 日本の文化で気になること
私たちは「日本の伝統色」にとても興味があります。山不枯のパッケージデザイン時も台湾山林の色を取り入れる以外に、日本の伝統色もかなり参考にしました。なぜなら日本の伝統色は自然界の動植物の色や現象から作られたもの。そしてどの色合いも、それぞれの季節を連想することができます。この季節と自然の色の調和が、山不枯のパッケージデザインの大きなインスピレショーンの源となりました。
ー これからお茶を通して伝えていきたいこと
台湾では伝統的な農業を守ることは今、非常に難しくなってきています。私たちにとって茶産業は「台湾精神」そのもの。私達にとって茶を作るということは地域を再創生し、そこに根付く自然環境と文化を守るということなのです。私たちは何度も兵庫県の豊岡、京都府の綾部、奈良など里山と呼ばれる日本の山林を訪問をしました。そしてそこで得た知識をまた台湾の農園に還元しています。
山不枯の茶園。良い茶葉が採れることだけではなく、環境にやさしいサスティナブルな方式を取っている
これまで地方の再創生の取り組みの中で、たくさんの困難に出会いました。例えばすでに茶園を経営していた先輩たちに、私たちの新しい考えを、最初はなかなか理解してもらうことができませんでした。また、環境にやさしい栽培を続ける上でかかるコストをどうするのか、そして広く私たちの取り組みをどう知ってもらうのかということなど。
しかし、目の前の問題に一歩ずつ取り組んでいたところ、2016年になんと台湾・金馬映画祭の実行委員会から第53回金馬映画祭の指定茶ブランドして選出されたのです。この栄誉ある出来事にメンバーみんなで歓喜しました。これからも今の環境との共生としたお茶づくりを続け、私たちが管理する守られた土地をさらに増やしていきたいと思います。
金馬映画祭は中国語映画のアカデミショーとも呼ばれる、台湾で一番大きな映画祭
また日本のみなさんにも台湾茶を好きになってもらい、消費をすることで私たちの活動をより理解し、台湾の里山を守る活動に参加してもらえたらと思っています。
テキスト・写真:山不枯
翻訳・編集:東 洋子